生き物とともに育った幼少時代
長崎県佐世保市で生まれた松尾さん。生後すぐに新生児メレナを発症した。ビタミンKの欠乏などによる胃腸からの出血が続き大量に吐血。
「この子は助からない」
医師から、そう宣告されたほど容体は重篤だった。
治療には長期にわたる輸血が必要だが、両親は血液型が合わない。輸血に協力してくれる人を探すため、ラジオで呼びかけた。
半年間、保育器で過ごして退院。その後は順調に成長したが、消化機能が弱いため、ご飯1膳分も食べられない。泣きながら食べたが、ガリガリにやせていた。今でも、少しずつ食べないとすぐにお腹が張り、具合が悪くなってしまうそうだ。
公務員の両親と3歳上の兄と4人で暮らした家は海にも山にも近く、豊かな自然に囲まれていた。庭も広く番犬として、松尾さんが生まれる前から犬を飼っていた。
母親の前田ヨシエさん(74)は「晴美は本当に変わった子どもでしたね」と振り返る。
山に行けばトンボや虫を見つけて手に乗せてジッと観察する。動物は何でも好きで、見るとすぐに寄っていく。
近所にドーベルマンを2頭飼っている酒屋があり、「危ないから来たらいけん」と飼い主に止められても近づき、ペロペロなめられて喜んでいたのを、ヨシエさんは覚えている。
「晴美の背丈の何倍もある大っきな犬ですよ。見ているこちらは怖かったですよ。いつも動物とは会話していたけど、人間のお友達は大きくなるまでいなかったです。
心配といえば心配だけど、病気をしたとき、もうこの世では生きられないと覚悟しましたからね。助けてもらった命だから、この子が好きなように生きればいいと思っていました」
初めて自分で生き物を飼ったのは4歳のときだ。ご飯を頑張って食べたご褒美にと父が2羽の文鳥を買ってくれた。
松尾さんは太郎と花子と名付け、餌をやって毎日世話をすると、よくなついた。
だが、育て方がよくわかっていなかったこともあり、死なせてしまった。
「もう、泣いて、泣いて、泣きました。死んだものは帰ってこない。命が消えるってどういうことか。命は本当に大事にしないといけないと、4歳で学びましたね」