確かに'14年のデング熱は、翌年まで持ち越すことはなかった。このときの感染ルートについて岩田さんはこう推測する。
「外国からいらした方、または海外から戻った日本人がデング熱に感染していて、その人を刺した蚊が感染してほかの日本人に広がった可能性。もしくは、これは比較的レアなケースだと思いますが、ウイルス感染した蚊が飛行機の中に紛れ込んで国内に入ってきたことが考えられます」
インバウンドの急増で高まる“リスク”
ここ何年かで、海外からのインバウンド(訪日外国人旅行)は増え続け、昨年は約3120万人と過去最高となった。
「例えば、来年は東京でオリンピックがあります。2025年には大阪万博の開催も決まりました。また、日本人の人口が減り、労働力として外国から人を呼び寄せて仕事をしてもらうということも増え始めます。人の往来が活発になれば当然、外から持ち込まれる感染症が国内で増える可能性はありますね」(岩田さん・以下同)
さらに蚊を媒体とする以外の感染症についても、岩田さんは警鐘を鳴らす。
「例えば、梅毒やHIVなどの性感染症。日本にもこれらの病原体はありますが、さらに外から持ち込まれて別の増え方をするというリスクも想定しなくてはいけなくなるでしょう。
これから感染症が増える可能性については、温暖化の問題とインバウンドの問題が交錯している場合と、それぞれが独立している場合を考える必要があると思います」
対策として初めに思いつくのが、空港などでの検疫。病気の感染者や、汚染が疑われる食品などを水際でブロックするため、国も力を入れているが……、
「一般論として、水際作戦というのはうまくいかないことが多いんです。体調は自己申告に頼っていますし、食料品についても、すべてにスクリーニングを行うことは現実的ではない。
例えば、生ハムやチーズにはリステリアという菌がついてきますし、魚だとビブリオコレラ、鶏肉だとカンピロバクターや、卵だとサルモネラ。これらを全部、水際でチェックするのは不可能に近いです」
それならばどうすればいいのか?
「大事なことは、入ってくるのをブロックするのではなく、むしろ入ってくることを前提に対策を立てることが重要になります。
例えば寄生虫感染。今、韓国産のヒラメの輸入を規制強化するなど話題になっていますが、そのヒラメについているクドアという寄生虫は、冷凍してしまえば完全に死んでしまうんです。
豚肉や鶏肉にしてもちゃんと火にかけて調理してから食べれば、ほとんどの微生物は死にますので、感染のリスクはほぼゼロになります。厚生労働省は、こういったことをしっかりアナウンスすることが必要だと思います」
まずは“敵”を知り、その対策をすることが初めの一歩だ。