脳科学者の茂木健一郎さんと、臨床心理学者の長谷川博一さんの共著『生きる─どんなにひどい世界でも』。茂木さんはこの本の冒頭でこう書いている。
《難しい時代を迎えている。驚くこと、悲しいことが毎日のようにおきてしまうだけでなく、そんなことに対する私たちの反応もおかしくなっている》
好きなことをやってみてほしい
さまざまな事件や災害などが次々に起こり、子どもから高齢者まで幅広い世代が「生きづらさ」を抱えているこの時代。
脳の可能性や心の不思議、人生とは何かに迫る対話を読むうちに、「今、ここを生きる力」が湧いてくる。
「生きづらい時代って言われることも多いけど、僕は面白い時代だと思っています。年齢を重ねていくと自分の人生はもう変わらないと思う人もいるようだけど、そんなことは全くありません。読者のみなさんだって、仕事をしている人も、独身の人も、専業主婦の人も、これからいくらでも新しいことを始められる可能性があるんですよ」
AI(人工知能)が注目される時代こそ、視力や体力が衰えても、テクノロジーがそれをサポートしてくれることもある。
自分の感性で勝負でき、それが新しい仕事や生きがいにつながる。そのためにも、ぜひ好きなことをやってみてほしいと茂木さんは言う。
「僕はね、40歳のときに突然思い立ってマラソンを始めたんです。つくばマラソンに3回出て、今年は東京マラソンで完走しました。
なぜ走ろうと思ったか自分でもわからないけど、走ってみたらできた。体調もよくなりました。今もまだ走り続けています」」
何より年齢にとらわれないことだと重ねて強調する。
「キーワードはエイジレスです。葛飾北斎が『神奈川沖浪裏』を描いたのが72歳といわれているように、経験を積めば積むほど創造性は高まっていくこともある。
脳の仕組みから見てもそれは当然のこと。人間の能力は最後は少し衰えてしまいますが、それまではほとんどフラットなんですよ」