「私は彼女たちとほぼ同世代。彼女たちが若いころには、女性は仕事か結婚かを選ばなければいけませんでした。
ところが、いまは“女性が輝く時代”と言われ、輝く場を求められる。長く家庭に入っていた女性たちが今、社会のどこで輝けるんですか? という思いを彼女たちに乗せました」
施設経営者・万平の長年の愛人で、彼のそばに寄り添うように仕事をしていた砂村千草や武田清の姪である菅原汐織など、登場人物は多彩だ。
「新海房子を除く登場人物は全員が悪人でもあるけれど、善人でもある。善意を持った悪人とでもいうのでしょうか。みんな無自覚に悪事を働いているんです。流されているうちに悪事に加担していて、さほど悪いことをしているつもりがない。見て見ぬふりをする人であったり、何も行動しなかったことで、結果、悪事に加担しています」
確かに安田さんの言うとおりだ。しかし、だからこそ怖いともいえる。そして物語は、最後の節に、終わらない闇を綴っている。それは、読んでからのお楽しみ、としておこう。
《ライターは見た!著者の素顔》
次回作として考えているのは「ジェンダー」のテーマ。「私自身が、無性、もしくは両性のXジェンダーであることが最近わかって、これまでの生きづらさやどこにも所属できない無力感の意味がわかったんです」。
これまで意味なく避けていたジェンダー問題も自身が定まったことで、テーマにする覚悟に変わったという。
「とてもハードだったこの本を全うしたからこそ、自分のことがわかりました。いまは、これまでの壁を破って、新たな何かを始めたいという気持ちです」
(取材・文/池野佐知子)
●PROFILE● やすだ・いお。1966年、大阪府生まれ。関西大学法学部政治学科卒業後、バンド活動、役者活動を経て、司法書士に。2010年、『百狐狸斉放』で第23回小説すばる新人賞を受賞(『たぶらかし』に改題して単行本化)。著書に『終活ファッションショー』『人形つかい小梅の事件簿』など。現在は小説家のほか、警備員なども。さまざまな職種でそれぞれの仮面をかぶる日々。