ゲノム編集では、標的とする遺伝子を簡単に自由自在に壊せるようになりました。その簡単さが大きなメリットです。また、これまでの遺伝子組み換えの場合、導入したほかの生物の遺伝子は、どの位置に入り込むかわかりませんでした。偶然に左右されることが大きいのです。ところがゲノム編集では、正確に標的とする遺伝子を操作できます。これも大きなメリットです。

 しかし、その簡単さと正確さが、安易な開発をもたらしています。遺伝子は生命の設計図です。その設計図を自由自在に変更するのですから、影響がとても大きいのです。ゲノム編集は、遺伝子全体を自由自在に変更できますので、遺伝子組み換えとは比べものにならないくらい、遺伝子の操作をスケールアップしています。そのことが食品の安全性に影響します。

 遺伝子の働きは大変複雑です。その複雑な働きに影響をもたらすのですから、何が起きても不思議ではありません。特に問題になっているのが、標的以外の遺伝子を壊す「オフターゲット」と呼ばれる現象です。この現象は必ず起き、さまざまな遺伝子の働きを変えてしまいます。

普通の食品と同じように流通する危機

 これまでゲノム編集食品を用いた安全性の試験は行われたことがありません。参考になるのが、ゲノム編集ではなく「RNA干渉法」という技術を用いて遺伝子を壊したジャガイモで、このジャガイモでは予想外の発がん物質や有害物質が生じていました。

 しかし、日本政府はゲノム編集作物について、栽培した際に起きるほかの植物などへの影響に関して、考えなくてよいとしました。さらに食品についても、安全審査をしなくてよいとしました。企業は自由に種子を販売できますし、農家も自由に作づけできます。食品メーカーは何の拘束も受けず食品として加工できますし、スーパーもほかの食品と変わらず販売できます。

 厚労省は、この作物について一応、届け出るようにと通知しました。しかし、届け出は業者の判断でいいとしました。そうなると、ほとんどの業者は届けないでしょう。届け出を任意としたため、食品表示も不可能となりました。これによって普通の食品と同じに流通してしまいます。

 なぜ急いで規制もないまま食卓に登場することを認めたのでしょうか。そこには2つの理由があります。

 ひとつは、規制や表示を行うと消費者から拒否され、広がらないという考え方によるものです。遺伝子組み換え食品では実際、環境への影響の評価や食品の安全性評価を義務づけ、表示を行うことを求めたため、消費者が選ぶことができ、広がりませんでした。日本国内での作づけもできませんでした。

 規制や表示をしなかったもうひとつの理由が、アメリカとの関係重視です。ただでさえアメリカ産に席巻されている私たちの食卓ですが、現在、国会で審議中のアメリカとの自由貿易協定が来年早々にも成立しそうです(※'19年12月4日に可決・承認)。ここではアメリカ産農作物の大量輸入が約束させられています。

 そうなると、日本のわずかな自給率がさらに押し下げられることになります。それは遺伝子組み換え作物とゲノム編集作物の日本の市場への大量流入を意味します。アメリカ政府や多国籍企業による食料戦略の柱が、これら遺伝子を操作した作物なのです。

 すでにアメリカではゲノム編集した大豆と菜種の栽培が拡大しつつあり、それが間もなく日本に入ってくることになります。もしかしたら、すでに入っているかもしれません。届け出も義務化されておらず、表示もされないため、一般の食品と同じ扱いになるため、わからないのです。

 どのような食品かというと、ひとつはカリクスト社が開発した「高オレイン酸大豆」。もうひとつが、サイバス社が開発した「除草剤耐性菜種」です。両者とも主な食品は食用油になります。マヨネーズやマーガリンといった油脂製品にも入ってきます。

 カリクスト社はアメリカ国内で、ゲノム編集大豆から作った食用油を「遺伝子組み換えでない」と表示して販売しています。サイバス社も開発した菜種を「遺伝子組み換えでない」と表示することを決めています。

 確かにゲノム編集は遺伝子組み換えではありませんが、よりスケールアップした遺伝子操作です。そのためこの表示は、詐欺行為といえます。カリクスト社は、さらに2020年から小麦の種子の販売を始めます。するとパンなどに使われることになり、私たちの主食が危なくなってきます。

 では実際に、私たちの食生活にどんな影響が出るでしょうか。いまの政権は、トランプ米政権が押しつける余剰トウモロコシなどの輸入を決めました。これらのトウモロコシは、大半が遺伝子組み換えです。さらに今後は、そこへゲノム編集されたトウモロコシまで増えていきます。私たちの食卓は、これらの安全性が確認されていない作物から作られた食品によって脅かされ、より危険な状態になっていくのです。

(執筆/上林裕子)


上林裕子 ◎フリージャーナリスト。北海道生まれ。業界専門誌を経て現在、ニュースサイト「ハーバービジネスオンライン」、「日刊ベリタ」などで執筆。食の安全をテーマに、生活者の視点から取材を続ける