学生を連れて原発を視察
大和田は、震災の翌年から『月曜Monday(もんだい)夜はこれから』という番組のなかで、震災報道を続けていた。国会議員や東京電力の幹部、県知事や市町村の首長らをスタジオに招いては、本音を質した。タレントのカンニング竹山やジャーナリストの堀潤など、県外のゲストと被災地を回り、率直な感想を語らせたこともある。大和田自身、仮設住宅に住む被災者を週に何度も訪ねて困りごとに耳を傾けた。
だが、震災から5年が過ぎた2016年、震災報道の潮目を感じる。前年に福島ラジオを定年退職した後も、フリーランスの立場で続投していたが、会社の幹部に番組の終了を告げられてしまうのだ。
「もう十分、震災報道の役割は果たしたよ」
震災当初は全社一丸となって報道に取り組んだが、時がたち、その熱量は失われていた。福島を地場とする広告主への配慮も見え隠れした。
大和田はふくしまFMに場を移し、『伝えるラジオ 福島リアル』という番組を2017年に始める。相方に福島大学の学生だった上石美咲さん(23)を抜擢した。
中学2年生で3・11を体験し、大学生になると都市計画の研究室に所属。浪江町の仮設住宅で調査を重ねた上石さんから、大和田は思ってもいなかったことを言われる。
「原発に行ってみたい」
動機は、特産の桃をキャンペーンする「ミスピーチ」として県外のデパートで試食会をしたときの屈辱だった。口にした桃を福島産と知って吐き出す人がいたのだ。
大和田はこう諭したという。
「きちんと説明できないあなたにも責任がある。農家の人たちは放射線量を厳しく測定し、出荷しています。数値はすべて平均以下です。買う買わないはお客さまの勝手ですけど、身体に影響のあるものをもってきているわけではありません。風評被害に対し、きちんと説明すべきだった」
大和田の厳しい言葉を受け、上石さんの真実を知りたいという気持ちは固まった。
「正直、不安はありました。親もずいぶん心配しました。でも、医師の話を聞いたり、公表されている数値を調べて、自分なりに納得できる入構の理由を見つけていきました。案内してくれた東電の人は学生の疑問にも真剣に向き合い、きちんと答えてくれました。なにかを隠していると疑っていましたが、少なくともこの方の言っていることは信用できると思いました」
以来、大和田は希望する学生に原発を取材させては番組のゲストに呼び、感想を尋ねてきた。その回数は第一原子力発電所(1F)に20回、第二原子力発電所(2F)に8回で、のべ88人におよぶ(2020年2月現在)。
「負の遺産を若者に押しつけるのは申し訳ないけど、廃炉にはまだ40年、50年とかかる見込みです。そのときいまの大学生は60代、70代になっています。次世代に伝え、託していかなくてはならないと思うようになっていきました」
自分の目で確かめるまで、原発の状況は事故当初とさほど変わらないと考える学生が少なくないと大和田は言う。