「捨ててもなんとかなる」という意識を
超高齢化社会の日本では、介護を必要とする人が増加の一途をたどる。厚生労働省によると現在、要介護・要支援認定者は約660万人。団塊世代が後期高齢者になる2025年には大量の「介護難民」が出るという予測もある。
では、「毒母」の介護に直面したらどうすればいいのか。
まず利用したいのは、高齢者に関する相談窓口の地域包括支援センターだ。市区町村ごとに設置され、情報収集や介護保険の申請などに専門スタッフの協力が得られる。
ただし、「介護なんか必要ない」と拒否する高齢者も少なくない。そんなときは親のかかりつけ医や訪問診療クリニックに相談する。診察や往診なら受け入れやすいため、医療スタッフからアプローチしてもらうのが効果的だ。
なんらかの介護体制ができても、ゆがんだ親子関係が解消されないことは多い。「毒親」に苦しめられ、自分の人生が壊れそうなときは、2つの選択肢を考えたい。「捨てる」と「関わる」だ。
「捨てる」は過激に思えるが、要は「捨ててもなんとかなる」という意識を持つこと。嫌いな親を無理して抱え込めば、高齢者虐待など深刻な問題を招く可能性も。まじめでやさしい人ほど「私がなんとかしなくては」と思いがちだが、子どもがいない高齢者でも普通に暮らせている。「親は他人」と割り切り公的サービスに頼って一線を引こう。
「関わる」のなら、まず考えるのは自分の生活や経済状況だ。介護は急に始まることも多いため、ついあわててしまいがち。そんなときこそ「自分にできる範囲」を見極め、ケアマネージャーなど周囲の人に相談する。例えば「仕事があるので実家に通えるのは休日だけ」とか、「施設費用を月に〇万円負担する」など。実務的なことだけでなく「親を許せない」、「きょうだいの仲が悪い」、そんな事情も率直に打ち明けよう。
介護保険は「介護を必要とする親」のための制度であり、「介護する子ども」の事情は考慮されていない。自分を守るために知識や情報を集め、介護スタッフと十分話し合ってほしい。
自分の人生を優先することで、親をつらい状態に追いやるかもしれない。親を犠牲にするような罪悪感もあるだろう。だが、親を憎みつつ嫌々介護するより、離れることで違う視点を得たほうがいい。「私なりに頑張った」「いろいろあったけど、最後は親に感謝できた」、そんなふうに思えれば、介護を終えたあとの人生は豊かになるはずだ。
(執筆/石川結貴)
石川結貴 ◎ジャーナリスト。家族・教育問題、児童虐待、青少年のインターネット利用などをテーマに取材、多くの話題作を発表している。『毒親介護』『スマホ廃人』(ともに文春新書)のほか著書多数