浅野さんが作る、力強い野菜は、シェフの間で評判を呼び、かつてはフランスの三ツ星レストランのピエール・ガニェール氏や、コペンハーゲンの有名レストラン『ノーマ』のレネ・レゼピ氏など、世界のビッグネームも、畑を見に来たことがあるほど。
2・5ヘクタールもの畑は、「今は、ばあさん(妻)と2人でやってるから」と、3分の1ほどに縮小しているが、野菜の味は折り紙つき。年間、30軒あまりのレストランと取引があるが、新しく取引を希望する店も少なくない。
納屋で新メニューの誕生も
しかし、初めてのシェフは、1つだけ守らなければならないルールがある。これが、豪快な浅野さんらしい。
「シェフに畑に来てもらって、まずは俺の野菜を食べてもらうってことだよ」
畑にシェフが訪れると、野菜をつまみながら、大いに語り合う。それが浅野さんの流儀だ。
「シェフの料理に対する考え方や、どんな野菜を求めているかを知りたいってこと。そうすると、新しく作る野菜のヒントにもなるしね」
刺激を受けるのは、浅野さんばかりではない。
野菜を味見したシェフは、それを使ってテストキッチンと呼ばれる納屋で、料理を試作。新しいメニューが誕生することも多い。
イタリアンレストラン、クリマ ディ トスカーナ(東京・本郷)のオーナーシェフ・佐藤真一さん(42)も、畑を訪れるたびに腕をふるうと話す。
「とれたての野菜をその場で使えるスピード感に加え、浅野さんの野菜は、味が濃い。初めてお目にかかる野菜もあるので、創作意欲が掻き立てられます。蒸したり、焼いたり、煮込みやピューレ、パスタにしたりと、思いつくままに作らせてもらう。店からアンチョビやチーズを持参することもあるけど、基本的には味つけはごくシンプルにします。そのほうが、野菜のおいしさをストレートに楽しめますから」
畑を訪れたシェフの試作料理を味わいながら、浅野さんが、肉や魚との組み合わせをアドバイスするのもいつものこと。これが、プロ顔負けなのだ。例えば、ベゴニアの葉を、料理に使うときは─。
「ビネガーで酸味を作ったら、肉や魚全体に回ってしまう。だけど、ベゴニアの葉で酸味を足せば、肉の味と混ざるのは葉っぱを噛んだときだけ。肉の味もはっきり残る」という具合。
こういった会話の中から、メニューのヒントを仕入れるシェフも少なくない。