自粛でたまったストレスは“ツボ押し”で解消を
──最後に、現在の新型コロナウイルスに関することをお伺いします。ウイルスの流行によって、世間では「免疫力」が注目されていますが、東洋医学で免疫力を上げることはできますか?
「免疫力」という魅力的な言葉に、私たちは飛びつきがちです。しかし、これはいわゆる医学用語ではない、と専門家から言われています。身体の免疫の仕組みはとても複雑で、何かの治療で免疫系のシステムが働きやすくなったとか、病気にかかりにくくなる、というような厳密な科学的根拠は限られていて、また、実際の臨床においてもその検証は難しいとされています。
ただ、一般論としては、過度のストレスや睡眠不足、バランスの悪い食事などが免疫系の働きを低下させることが知られています。ですので、“ツボ押し”でリラックスしたり、ヨガなどで質のよい睡眠を得られたりすることは、免疫系の働きを維持することに繋がるのではないかと思います。
また、最新の生理学研究では、ツボへの鍼灸刺激がストレス反応をコントロールする神経系を調節し、ホルモン分泌を経て免疫システムに影響することなどが、明らかになりつつあります。日本では、古くから足の『三里』というツボにお灸をすると健康にいいとされてきましたが、その効果やメカニズムは実証されつつあると聞いています。
──新型コロナウイルスにかからないようにするために、人との接触や手洗い以外に、何か注意点がありましたら教えてください。
私はあくまでも医療・科学ジャンルの番組制作を担当しているテレビディレクターなので、感染症対策については、専門家のお話に耳を傾けていただければと思います。 ただ、この状況が長期化するなかで、心身の健康を保つことが重要なことは言うまでもありません。特に、外出の自粛による運動不足や、閉じこもることでメンタルストレスを抱えてしまうことは、様々な病気を引き起こすリスクになります。
番組で紹介した東洋医学のセルフケアは、こうした健康リスクを緩和する手段のひとつとして期待されているんです。運動不足や慣れない在宅ワークでこわばりがちな筋肉へのツボ刺激やヨガのほか、心理的ストレスに効果があるとされる『百会』などのツボを押すこともオススメです。舌清掃に関しても、口はウイルスの侵入経路のひとつなので、その環境を整えることは大切とのこと。ぜひ、東洋医学のセルフケアを取り入れて、外出自粛を乗り切っていただければと思います。
《PROFILE》
山本高穂(やまもと・たかお) ◎NHKエデュケーショナル 科学健康部 シニア・プロデューサー。1997年、ディタクターとしてNHK入局、NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー、制作局 科学・環境番組部 チーフ・ディレクターなどを経て2019年より現職。
主な担当番組:特集番組『東洋医学ホントのチカラ』、NHKスペシャル『病の起源・うつ病』、同『謎の海洋民族 モーケン』、『クローズアップ現代+』、『ダーウィンが来た!』、『サイエンスZERO』など多数。