客からの“クレーム”がさらなる進化を促す
「食材の廃棄率を下げるためにタッチパネルを導入し、いま現在、大手チェーン店のロス率は、1%台といわれています。また、スタッフの労力を削減するために給茶システムが生まれました。『くら寿司』は、1990年代後半に皿カウンター水回収システム、時間制管理システム、自動廃棄システムなど、いち早くフロアの効率化に取り組んでいます。
実は、これらの多くは“使い勝手が悪い”“待たされる”などクレームに対応するために開発された背景があります。クレームによって回転寿司の進化が後押しされているところがあるんです」(米川さん)
2016年、公益社団法人発明協会が『戦後日本のイノベーション100選』を選定した際には、外食産業で唯一、回転寿司が選ばれたほど。コロナに起因する感染症対策として、タッチパネルに触りたくないという要望に応える形で、スマホの専用アプリから注文を行えるように対策を講じた大手チェーンもある。このスピーディーな対応ひとつ取っても、いかに回転寿司が先進的な外食産業かわかるはずだ。
また、技術革新によって人件費や廃棄率の効率化を実現したことで、「通常30%を切る外食産業にあって、回転寿司チェーンは平均40~50%という高い原価率(材料比率)を可能にしています」と説明するのは、調達・購買業務コンサルタントで、未来調達研究所の坂口孝則さん。
「回転寿司の価格の秘密は、原価率の高いネタと安いネタの両方を食べてもらうことで、値段のバランスをとっていること。“粗利ミックス”と呼ぶのですが、ひとつの商品で利益率を考えるのではなく、まとめて利益を考えていくわけですね。
また、集客のための“吸引力”として大特価のマグロや目玉商品を軸に展開することを『マグネット商品』と言います。目玉商品に手をのばす一方、子どもは原価率の低いネタを、お父さんは原価100円のビールを500円で飲む。回転寿司はマーケティング面においても、非常に先進的な外食産業と言えます」(坂口さん)
スイーツやドリンク類などサイドメニューが充実していることも理由があるという。
「通常、外食産業はランチタイムとディナータイム以外は、客足が鈍ります。ところが、回転寿司はスイーツなどを充実させることで、14時~18時のアイドルタイム(遊休時間)に、学生やママ友などのグループが利用したくなるような工夫を施している。
しかも、ケーキ類の原価は68円と比較的高い。回転寿司はネタが回転するだけでなく、客の“回転率”も視野に入れて設計されています」(坂口さん)
徹底した機械化とマーケティングによって進化し続けてきた回転寿司。となると、残すは「味そのものへの追求でしょう」と、前出の米川さんは語る。
「『スシロー』さんはセントラルキッチンを持っておらず、店内調理やスライスをしているので『天然魚フェア』を開催した際には、天然もののサメガレイ、しかもエンガワがレーンから流れてきました。
効率的にコストを削減できる設備と戦略があるからこそ、人件費をかけてでも美味しさの追求が可能となる。追いつき追い越せで、ほかのチェーン店も質にこだわるようになる。現在、回転寿司は安さ以上に、美味しさを競い合う新たな局面を迎えていると言えます」(米川さん)