蜂に死なれると、本当につらくて悲しい

 また、大きな商機を逃したこともあった。多くの農家から花粉交配用の蜂が欲しいという問い合わせがあったにもかかわらず、手元に売る蜂がいなかったのだ。これは、蜂一匹一匹をより丁寧に育てるため、蜂を増やす作業を抑えていたことに起因する。その判断は、よかれと思った栄太さんの発案だった。

4月、鹿児島でれんげ草のハチミツを採取。巣につく蜂を振るい落とすところ。周囲にはおびただしい数のミツバチが。「女王バチは1日2000個の卵を産むんです。その量は自分の体重と同じぐらいです」撮影/伊藤和幸
4月、鹿児島でれんげ草のハチミツを採取。巣につく蜂を振るい落とすところ。周囲にはおびただしい数のミツバチが。「女王バチは1日2000個の卵を産むんです。その量は自分の体重と同じぐらいです」撮影/伊藤和幸
【写真】鹿児島→北海道の3600キロの移動を終え、大量の蜜箱を下ろす一家の一場面

「初めてグンと蜂を減らした年に限って、大きな台風が2つきて全国的に蜂が流されたり、広範囲でダニが流行ったりで。同業者からの問い合わせもありました。だけど、売る蜂がないわけです。

 ウチも一部の蜂がダニ被害に遭いました。所詮、虫ではあるんですけど、蜂に死なれると本当につらくて、悲しくなるんです。彼女にフラレた感じというか

 いま、日本の蜂屋が抱えているいちばんの問題はこのダニだという。温暖化でダニが増えやすくなり、薬の耐性もできてきたからだ。自分の代になったら量より質を追求したいと思っていた矢先の大きな損失に、量も大切だと揺れる3代目。そして、思うのは偉大な祖父と父のこと。

「最初は意気込んでいましたけど、納得のいかない結果に終わってしまって……。改めて思ったのは、大親方と親方のすごさです。じいちゃんは本当に蜂LOVEで、蜂を触っていないと落ち着かない人。天候や自然を読むのも、蜂に関する知識も抜群だし、技術面では足元にも及ばない遠い道しるべ。

 父に関しては、現場にあまり来ない時期があり、正直、『蜂が好きじゃないのかな』と思ったこともあります。だけど、自分が経営のことを任されて初めて、人付き合いはもちろん売り上げの管理や許可関連の手続きまで父ひとりでやっていたとわかりました。すごい仕事量で、よくこれだけ量をこなせるなと」

 祖父が創業し、父が大きくした養蜂園。愛すべき蜂とともに、3代目の奮闘は続く。


取材・文/山脇麻生(やまわき まお) 編集者、漫画誌編集長を経て'01年よりフリー。『朝日新聞』『週刊SPA!』『日経エンタテインメント!』などでコミック評を執筆。また、各紙誌にて文化人・著名人のインタビューや食・酒・地域創生に関する記事を執筆