香港政府からマスクが配布されたが…
「面白いのは、日本でマスク不足が叫ばれていた春ごろ、ここ香港で日本製のマスクがずいぶん売られていたこと。商魂たくましい人の手によるものでしょうが、1箱1000香港ドル(約1万3500円)などと高値がつけられ、その値段でも売れていました」と山本さん。
さらに、興味深いことがもうひとつ。
日本でいわゆる「アベノマスク」が配布されたのと同様、香港でも政府によって5月に市民にマスクの無料配布がおこなわれた。「2枚じゃなくて、5枚です」とのこと。「見ます?」と山本さんにも届いたマスクを真新しいビニール袋から取り出し、オンライン取材の画面の向こうから見せてくれた。
「使ってないんですか?」
「ええ。われわれには、日本の本社が(マスクを)送ってくれたので」
香港政府配布のマスクは、白地に薄いベージュのストライプ模様。おしゃれなデザインに見えた。
同封の説明書きに、《ジュネーブで開催される世界最大の発明品国際展示 (International Exhibition of Inventions of Geneva)で、一昨年、金メダルを獲得したもので、口に当たる部分は薄いガーゼ。6層構造のうち2層は銅を使った素材でできているため、菌の移動を防ぐ》とあるそうだ。
「アベノマスクよりもずっと使い勝手がよさそうですね」と言うと、山本さんは苦笑しながらこう返した。
「実は街でだれひとり、この政府配布のマスクをつけて歩いている人を見かけないんですね」
そのマスクをつけないことが、「無言の政府へのレジスタンス」と、市民の間で共通認識されている、というのだ。驚いた。