やけ酒やケンカが増えたら要注意
堀田 依存症の黄色信号をあげるとすれば何でしょうか?
山下 大好きな人とケンカが増えると危ないと自覚したほうがいいでしょう。堀田先生も書籍の中で「やけ酒はダメ酒」と強調していますよね。
堀田 東京大学大学院の松木則夫・野村洋の研究ですね。「やけ酒をすると嫌な記憶や気持ちがかえって強くなる」ことが報告されていて、アメリカ国立衛生研究所のホームズらの研究結果でも、「アルコールを常習すると嫌な記憶を消す能力が下がる」と指摘されています。飲みすぎは何ひとつメリットがないことが、科学的に証明されている。
山下 例えば、「宝くじがハズレました」と言われるのと、「当たりました! ……すいません、やっぱりハズレてました」では、後者のほうが気落ちの落差が激しい。
同様に、やけ酒は、そのときは嫌なことが消えて楽しいけれど、朝起きると再び不快な現実と向き合わなければいけない。「楽しい席でのお酒は残らない」とよく言われますが、つまり頭痛や吐き気といった二日酔いの正体は、沈んだメンタルがもたらす「うつ」がフィジカルに変換された症状とも言えるのです。
堀田 興味深い指摘です。
山下 また依存症の患者さんの中には、「自分はお酒を飲んだほうが腹を割って大事な話がしやすいから飲む」と話す方も少なくありません。
そんな際に、「であるなら私もお酒を飲みながらあなたのカウンセリングをしたほうがよいのでしょうか」と尋ねると、みなさん「嫌だ」となる。これも患者さんが適当なことを話しているからではなく、「自身が依存症という病気であることに気がつけない」ことがもたらす病気の症状なのです。
堀田 ウィズコロナの最中、われわれを驚かせた事象のひとつが、相次ぐ芸能人の自死ですね。見えない恐怖は誰だって怖い。ぼんやりとした不安を抱えているとき、何が背中を押すかはわからない……。
山下 自殺の背景にアルコールが関係しているケースは本当に多い。アルコールは理性や判断を司る前頭前野の血流を低下させ死への恐怖心をも麻痺させるのです。アルコール依存症の有無にかかわらず、つらいときにお酒を飲むことは絶対にやめてください。
堀田 そのとおりですね。前頭前野は新しい脳である「大脳新皮質」にあります。理性や知性といった「考えること」に関係する脳の部分ですから、お酒を飲むと機能が低下してしまう。
山下 ストレス対処の最も簡単な対処法は時間稼ぎです。怒りでも空腹でも、時間がたつと必ずしぼんでいきますよね。つまり、何か嫌なことがあった際に、「お風呂に入る」「散歩をする」など、習慣的にやることを決めておくだけで変わってきます。自分で時間の流れを止めるアクションがあると歯止めになると思いますね。
堀田 あと、欲求を抑制する方法として、“気をそらす”こともあげられるかな。アメリカでは暴飲暴食を回避する方法として、おでこを指で叩くだけで食欲が抑えられるという研究もあります。ストレスは基本的に古い脳(脳幹)の働きによって引き起こされますから、新しい脳を使うように意識をそらすだけで、ブレーキが働く。
山下 私は患者さんに、「依存物質を摂取したくなったらまずは7秒我慢してください」と伝えています。そして、その7秒後も渇望が消えなければ「もう7秒待ってみる」。すると「7秒を繰り返してみたところ、その日は我慢できた」と話す方が一定数いらっしゃるのです。
堀田 まさに「怒りを感じたら5秒待とう」という、アンガーマネージメントに通じるところがありますね。
山下 堀田先生の本では、そういったアクションが多数紹介されている。時間の経過にただただ委ねないように、自分で流れを止める術を心がけてほしいですね。
堀田 よく読み込んでくださって、ありがたいなぁ~。さすが精神科の先生、心地よい……。山下先生と話していると、それこそストレスを感じない!(笑)