指紋に集中し過ぎた捜査
一家4人が殺害された現場の民家は現在、公園の側にぽつんと立っている。ひび割れなどの経年劣化が見られ、周囲にはフェンスが張り巡らされている。近くにある電話ボックス大の詰所は、昨年2月に成城署の署員が引きあげたため、中には誰もいない。
20年前の大晦日、そこに確かにいた犯人──。
血液型はA型で、身長170センチ前後の比較的若い男とみられている。現場で見つかった犯人の遺留品は、トレーナー、靴、帽子、マフラーなどの衣類一式、犯行に使われた柳刃包丁など、まるで「逮捕できるのならやってみろ」と言わんばかりの証拠品の数々だった。
中でもトレーナーは薄い灰色、両袖が薄い紫色のラグラン袖Lサイズで、発売から発生当日まで都内では八王子、聖蹟桜ヶ丘、荻窪、青砥のカジュアル服専門店で合計10着しか販売されていなかった。うち1着は購入者がすでに特定されており、警視庁は残り9着の購入者を探している。
犯行後、犯人はそのまま長時間、現場に居続け、冷凍庫に入っていたカップのアイスクリームを素手で絞り出して食べたり、みきおさんのパソコンでインターネット検索をしたり、書類や新聞の折り込み広告をはさみで切り刻んで浴槽に投げ入れたりするなど、その行動の特異性は際立っていた。
しかし、これだけ多くの証拠が残されていたにもかかわらず、犯人の現場への侵入経路や動機が解明されていないなど謎も多い。捜査上の問題点として浮かび上がっているのは、発生から数年間、指紋捜査に集中しすぎたことだと、土田さんは指摘する。
「指紋が残っていたということは、限りなく犯人に直結する証拠。だからその捜査に集中するのは、警察としては当然なのです。数十人態勢の指紋専門チームも作りました。ところがこの結果、捜査力が分散され、広範囲にわたる聞き込みなどの基礎捜査に時間がさけなかった」
捜査本部は、現場で採取された犯人の指紋と、警察庁が保管しているデータベースの指紋を照合させたが、合致しなかった。このため、現場周辺の住民、交通違反切符や各警察署に保管されている微罪処分の書類、ホテルの宿泊者名簿などを任意で取り寄せ、ひとつひとつ照合させる地道な作業を続けてきた。