外科手術にともなうリスクを回避できる
では、なぜBNCTが今までの治療法とここまで違うのか? それは、放射線と薬剤という2つのアプローチがあり、原理が全く違うからだ。
放射線治療は現在、エックス線、ガンマ線、陽子線、重粒子線が使われている。BNCTは中性子線という今まで治療で使われていなかった放射線を使う。しかし、「中性子線治療」とはいわない理由があるのだ。それは、
「中性子そのものががん細胞をやっつけるのではありません。がん細胞に集まる性質があるホウ素という薬剤を使用し、このホウ素が核反応を起こして、粒子線を出してがん細胞を破壊します」
その粒子線が飛ぶ距離は、なんと細胞内だけ。つまり、細胞1個の中で行われる粒子線治療なのだ。エックス線やガンマ線は、放射線があたる皮膚でいちばんエネルギーが高くなるため、ヤケドのような症状が現れることがあるが、中性子線にはない。
「BNCTはピンポイントでがん細胞だけをたたくため、ほかの臓器を傷つけません」
さらに外科手術にともなうリスクも回避できる。
「頭頸部がんは外科手術を行うと顔の一部がごっそりなくなってしまったり声を失ったり、あごや舌の機能を失い、しゃべれなくなったりすることがあります。しかし、BNCTなら、身体の機能を失うことがありません」
2014年、ミュージシャンで音楽プロデューサーのつんく♂が咽頭がんの手術で声帯を失ったが、もしBNCTなら、
「今でも声が聞けたかもしれませんね。つんく♂さんが罹患(りかん)された当時は、BNCTの治験も行われていなかったため、時代が合わなかったとしかいいようがありません」
たった数年の差で失ってしまった歌声が惜しまれる。
現在対象となっているのは、切除不能、または再発の頭頸部がん(首から上のがんで脳腫瘍を除く)で、昨年6月から保険適用となっている。
「中性子線が届く範囲なら、物理的には治療が可能です。今後は脳腫瘍、肺がん、肝臓がんなどの治療も可能になっていくかもしれません」
この治療を受けるには、担当医からの紹介状と検査画像データが必要だ。当センターでは気軽に行えるメール相談もあり、そこから始めてみてもいいだろう。
病院設置型の中性子を発生させる加速器が開発されたことで、BNCT治療が大きく進展。当センターに導入される以前は、京都大学の研究グループが旧・京都大学原子炉実験所で治験を行っていた。BNCTの治療装置(サイクロトロン)を取り入れる病院も、当センター以外にも数か所予定されているという。
現在のがん治療は、多岐にわたり、内容も難しくなっているが、あきらめないで知ることと行動することが大切だ。今後の生活を大きく変える一歩になるかもしれない。