女性パートナーと双子の子育て
「写真、見ます?」
ちょっと照れながら、スマホをこちらに向ける。そこにはハーフの女の子2人が笑顔で映っている。
「ローマとパール。10歳になる双子の娘たちです。うちは母親2人で子育てする、ダブルマザーなんです」
女性パートナーとの間に子どもを持とうと思ったのは、山崎さんが39歳で早期の乳がんを患ったころ。
「アメリカで治療を受けたんですが、医療コーディネーターから『子どもをつくる予定はないの?』って聞かれて、パートナーと本気で考えるようになりました」
そのパートナーが、移動販売時代からの相棒、石原千絵さんだ。千絵さんが話す。
「山崎は最初、子どもを持つことに消極的でした。母親を知らずに育ってきたので、親になる自信がないと。でも、半ば強引に説得しました。山崎は自分の出生に不信感を抱えて生きていました。親になることで、それを乗り越えてほしかったんです」
双子が誕生してからは、怒濤の育児が始まった。おむつを替えたり、ミルクを飲ませたり、2人の世話をしながら、山崎さんは改めて思ったという。
「赤ちゃんは、お世話しないと生きていけないんだって。そう考えると、いま私が生きてるのは、あんな親でも世話をしてくれたからだって。感謝とまではいかないけど、なんとなく、ありがたかったな」
そう話す一方で、「だけど、うちのお父さんはやっぱダメだったと思う」と笑う。
「私は親になって自分より子どもがいちばんになったけど、うちのお父さんは何にも変わってなかったから(笑)」
娘たちへの愛情は深く、ダブルマザーということで、いじめにあわないかと心配したこともあった。
「幼稚園や小学校で先生に、事前に相談したり。だけど、拍子抜けするほど自然に受け入れられました。私たちも母親2人で、子どものイベントにどんどん参加して、ママ友やパパ友とも仲よくなって、世界が広がりましたね」
そうやって子どもたちと歳月を重ねながら、「育てられているのは私のほうだ」と折に触れ感じているという。
「小さいころは、怒ってばかりでした。でも、娘たちが『怒られるとやる気がしない』って(笑)。親は失敗させたくないからガミガミ言うけど、子どものタイミングでやらせればいいし、失敗も力になるって気づきました。そのころから、スタッフへの接し方も変わりましたね」
広報の久湊さんが話す。
「以前の社長は、思ったことをわーっと注意してましたが、子どもを持ってからは、ひと呼吸おいて、ソフトに伝えるようになりました。積極的に人と会い、情報収集して、新たな挑戦を始めたのも変化です」
WASH&FOLDでは、新たなサービスとして、スーツやコートなどを、石油系有機溶剤を一切使わずに水洗いできるクリーニングを始めたという。
地球環境に配慮したビジネスを取り入れたのは、「未来」を意識してのことだ。
「やんちゃしてたころは、未来なんか描けなかった。生きる意味すらわからなかった。でも、子どもを持って、彼女たちが育っていく未来に目が向いたんですね。自分にできる洗濯の分野で、環境を守っていきたいと。そういう活動を通して、うちのスタッフが胸を張れる会社にしていこうと思っています」
ここ数年、洗濯代行サービスは同業他社が参入し、ライバルが増えつつある。しかし、『元祖』の独走態勢は変わっていない。
「うちのスタッフにはいつも気合を入れてます。ずっと1番でいようね! せっかく日本一なんだから絶対、死守するよ! ってね」
取材・文/中山み登り(なかやまみどり) ルポライター。東京都生まれ。高齢化、子育て、働く母親の現状など現代社会が抱える問題を精力的に取材。主な著書に『自立した子に育てる』(PHP研究所)『二度目の自分探し』(光文社文庫)など。高校生の娘を育てるシングルマザー