では、日本国内で最初に実用化したファイザー社の製ワクチンは、国内生産できないのか。これは、技術面や財政面の障害が取り除かれても、生産者にとって最も悩ましい問題があり、容易に着手できないのが実情だ。
それは、ファイザー社製ワクチンによって形成された抗体が、どの程度存続するかが見定められないからである。コロナワクチンは各国で特例として緊急的に承認された。したがって、ワクチンでできた抗体の存続期間は、治験参加者や接種した人を経過観察しながら見定めるしかない。
臨床試験を終えて認可されたワクチンが世界で初めて接種されたのが2020年12月、イギリスにおいてであった。したがって、本稿執筆時点では、ワクチンでできた抗体が1年以上存続するか否かを断定できない。
生産が軌道に乗るまでに1年かかる
抗体がかなり長く存続するならば、人類にとっては喜ばしいが、製薬会社は今後、ワクチン生産であまり収益を見込めない。まるで、破れないストッキングを作ると、メーカーは儲からないという話のようである。今後もワクチン接種を多く必要とするならば、今から新たにワクチン生産体制を構築しても成算が立ちやすい。
その生産技術を他に援用できるならまだしも、抗体の存続期間について見極めがつきにくいと、生産体制を今から立ち上げるのに躊躇する恐れがある。加えて、今から生産体制を立ち上げるとしても、生産が軌道に乗るまでには1年ほどかかるという。
そうした情勢に鑑みれば、2021年度のワクチン接種において、ファイザー社製ワクチンの国内生産は容易ではなさそうだ。今しばらくは、海外からの追加供給がいつ、どれだけ行われるかに神経を使う状況が続くことになるだろう。同時に、ワクチンが確保できても、接種できる医療従事者の確保など各地でいかに円滑に接種を進めるかにも注力しなければならない。
ワクチン接種が新型コロナの感染収束に効果を発揮するように実施されることを願ってやまない。
土居 丈朗(どい たけろう)Takero Doi 慶應義塾大学 経済学部教授
1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、中央環境審議会臨時委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。