またよく確認せずに口に運んだものが、はたして骨とも限らない。
「ご遺体と一緒に棺桶に入れられた副葬品の金属やガラスの破片が骨にまざっていることもあります。火葬場で慌てて口にするよりも、帰宅後に骨つぼから、明らかに遺族の骨とわかるものを口にしたほうが危険度は少ないでしょう」
悲しみゆえの行動も、時に正しい知識は必要なのだ。
骨噛みがほかの参列者に見つかれば、この行為を快く思わない親族との間でトラブルが勃発することも……。
「どうしても故人の骨を食べたかったら喪主や火葬場の職員にひと言断ってからのほうがいいでしょう」
決して許されない遺体の取り違え
火葬や葬儀での手違いは許されるものではないが、職員のミスによるトラブルもある。あまり大きくは報じられていないが昨年5月には、大阪府和泉市の市営火葬場で、通夜を終える前の遺体を葬儀会社の社員が誤って火葬した事例もある。
「関西ではのど仏や歯など主要な骨だけを収める部分収骨が多いので、勘違いをした職員が収骨前の遺骨を集塵機で粉々にしてしまった……なんて話も耳にしましたね。最終的には、葬儀会社が遺族に対して賠償金を支払ったようです」
もちろん火葬場で起こるのは、仰天エピソードだけではない。
「なかでもつらいのは、自死をしたご遺体のお骨上げです。僕もかつて、みずから命を絶った中学生のお骨上げに立ち会ったことがあるのですが、なんとも耐え難い現場でした。普段は“こちらが足元で、あちらがお頭になります”とお身体の説明をするのですが、あまりにも悲痛な様子のご遺族を前にすると、“一刻も早くお骨上げを終わらせてあげよう”と思いましたね」
なぜこの子は亡くなったのか。自分はどうすればよかったのか──。遺された両親からは、怒りとも悲しみともつかない感情がにじみ出ていた。
「自死同様、焼死したご遺体を荼毘に付すのもつらかったですね。すでに性別もわからないほど真っ黒になっていたご遺体をもう一度、高温の炉に入れるわけですから……」
その際、下駄さんは思わず心の中で「もう一度、我慢してね」とつぶやいたという。
「コロナ禍で若い方の自殺が増加しているといわれていますが、自死をした後のことや遺族の苦しみなど現場で見聞きした事実を伝えていくことで、少しでも自殺の抑止力になればと願っています」
火葬場を語る下駄さんの死生観
今や人気YouTuberとして火葬場にまつわるエピソードを発信する下駄さんだが、火葬場職員となったのは知人の紹介。たまたま募集していたこともありひょんな成り行きだった。
日夜、火葬を行うにつれて下駄さんの死生観にも変化が生まれた。
「初めのころは僕も、死とは非日常的なものだと思っていました。しかし火葬が生活の一部になっていくとその考えも変わりました。人は生まれたら、必ず死ぬ。“死ぬことは、誰にでも訪れるごく自然なことなんだ”と捉えられるようになりました」
目の前の死を特別視せず、ありのままに受け入れる。そんな死生観を培った下駄さんは、みずから祖母の火葬に携わったこともある。
「身内の火葬とはいえ、特別な感情や思いは湧いてこなかったですね」