ここままでは質素倹約に励んだ妻が馬鹿を見る

 夫は3割の生活費と携帯代、保険料さえ負担すれば、それ以外は自由に使える恵まれた身分にも関わらず、「あの歳で貯金がないなんて信じられません!」と香澄さんは声を荒げます。夫は「あればあるだけ使う」性分なのです。一方、香澄さんは節約の努力を欠かしませんでした。例えば、ネットの価格比較サイトを利用し、一番安いショップを選ぶほどの徹底ぶり。その結果、8年間の結婚生活で1200万円を貯めることができたそうです。まさに「ちりも積もれば山となる」を実践したのです。

 財産分与について、「もし、旦那さんも同じく1200万円を持っているのなら話は別ですよ」と筆者は解説。これなら夫婦の財産の合計は2400万円。これを折半するので夫も香澄さんも1200万円です。これなら香澄さんの財産が夫へ流れることはありません。夫婦の財産が同額でなくても、夫の財産が500万円なら、香澄さんが夫へ支払う金額は350万円、300万円なら450万円という具合です。

 分与の対象は夫婦がどちらも頑張って築いた財産のはずですが、香澄さんのケースは「夫婦の財産」とは名ばかり。実際には「妻の財産」だけを夫だけに譲るという一方的な内容で、まるで質素倹約に励んだ正直者が馬鹿を見るようです。

 財産分与の根拠は内助の功。家事を何もやらない夫が女々しくも財産を請求するのは無理があります。香澄さんは筆者のところに相談しに来るまで、別の事務所に相談しに行ったことがあるそうですが、「夫婦の財産は折半ですから」という杓子定規のアドバイスばかり。「もう、いいです!」とうんざりして踵を返すという繰り返し。節約家の香澄さんが損をし、浪費家の夫が得をするのはあまりにも不条理です。果たして「使ったもの勝ち」がまかり通るのでしょうか? そこで「露木先生なら」と最後の望みをかけたそうです。

財産を渡さず、夫をやり込める方法とは

 筆者は香澄さんの話を一通り聞いた上で、3つの切り口を用意しました。香澄さんはそれを参考に夫を説得しにかかったのです。

 まず1つ目は「財産形成への貢献度」。財産を築くにあたり、「配偶者の貢献」が果たした役割は曖昧です。筆者が「旦那さんと結婚せず、独身のままでも、1200万円の貯金を作ることができたのでは?」と投げかけると、「彼と結婚していなければ、もっと貯まっていましたよ」と香澄さんは返します。

 なぜなら、夫は家事を全く手伝わなかったので、香澄さんの家事負担は独身時より増したからです。香澄さんはそのことを踏まえた上で「あなたのパンツを洗ったり、あなたの部屋に掃除機をかけたり、あなたのぶんのお皿を洗ったりした時間を会社の仕事や資産の運用に回せば、もっと貯金は増えていたはずよ」とやり込めたのです。

 2つ目は「金銭感覚の違い」です。香澄さんが結婚したのは34歳のとき。すでに右も左の分からないうぶな年齢ではなく、また順調にキャリアを重ね、10人の部下を抱える管理職まで昇りつめた経験を備えていました。

 筆者は「結婚に浮かれる女性が『ダメな彼を私が立ち直らせる』と母性本能を発揮しようとするケースは少なくありませんよ」と慰めたのですが、香澄さんは「私はそんなに甘くありません」と答えます。彼の性格は生まれ持った遺伝子や生まれ育った家庭環境によって形成されたもの。「私色に染める」というのは甘すぎる幻想。人間の本質を変えるのは無理だと承知の上で結婚したそうです。なぜでしょうか?

 香澄さんは給与や賞与の金額はもちろん、何にいくら使うのか、どのくらい貯めるのか……懐具合について夫に干渉されたくないと思っていました。お金を使い過ぎたことに対して夫が「悪い」と思っているのなら、不干渉というルールを受け入れるだろうと見込んでいたのですが、やはり見立て通りでした。「結婚するとき、お互いにお金のことには何も言わないという約束でした」と香澄さんは振り返ります。

 しかし、いざ離婚が決定的になると夫の態度が一変。香澄さんの貯金を目当てにしてきたのですが、これは予想外の展開でした。夫の金使いの荒さを黙認してきた香澄さんに対して恩を仇で返すような悪行でしょう。どうせ離婚するのだから、どう思われてもいいということでしょうか。夫のやり方は極めて不誠実です。