ムダな反応の代表選手は「妄想」
ストレスやイライラを生み出す「ムダな反応」。そのもっとも代表的なものが妄想だという。
「人は、暇さえあれば常に妄想しています。あの人が悪い、この先不安だらけだ、など、何かを根拠なく思い込んだり、決めつけたりし続けています」(草薙和尚、以下同)
たしかに、あの人にどう思われているだろうかとか、どれだけ考えても確かめようのないことをぐるぐると頭の中で考えてしまうことは誰にでもあるだろう。
そういった妄想から自由になり、イライラやストレスが減るのなら「ムダな反応」をやめたいところだが、「ムダに反応しない」とは具体的にどういうことなのかがわかる草薙和尚のエピソードをひとつ紹介したい。
数年前、草薙和尚がある公園でホームレス向けの炊き出しを手伝っていたときのこと。ヤクザ風の男が酒を飲んで暴れだし、炊き出しの鍋のそばで「こんなもんひっくりかえしたる!」とわめきはじめたという。男が大声で「偽善じゃろうが」とわめき散らすなか、草薙和尚は男へ不快な感情が湧かないよう、なるべく反応しないようにしながら、「偽善かもしれんなあ」と穏やかに男に接し続け、男が何に怒っているのか、理解しようと努めた。
やがて警官が到着し、男を連行していくとき、男は長年刑務所に入っている母親に手紙を書きたいが、文字が書けないので手紙を出せないのだと言った。その日の夜、草薙和尚は警察署から戻った男と一緒に手紙を書き、いろいろな話をした。男とは今も友人でいるそうだ。
「もしあのとき私が、暴れていることへの怒りの感情で男に対応したり、相手を危険な男に違いない、話をする余地など絶対ないと妄想によって判断し、否定したりしていたら、きっと、男は心を開かず、もしかしたらいまだに母親に手紙を出せないでいたかもしれません。
よしあしをムダに判断せず、自分だけが正しいと思い込まずに、まずは相手を理解しようとする。つい反応してしまいそうになる状況こそ、反応しないことが大切なのです」
こうしたムダな心の反応を避ける技術はほんのひと工夫で、誰でも簡単に日々の生活に取り入れることができるという。そのもっとも敷居の低い方法を聞いた。
反応をやめるには身体の感覚を意識!
ムダな心の反応を減らす方法で、もっともオススメなのは、身体の感覚を意識すること。
「何か別のことをして気分転換することもあると思いますが、それだと悩みは根本的にはなくなりません。心が単に次の反応に移るだけだからです。そこで、心からいったん離れ、身体の感覚のみに集中してみましょう。すると、心の反応が静まり、ストレスやイライラに満ちていた心がスッと軽くなります」
そんな身体の感覚を意識する方法の中でも、次に紹介する2つの方法は、手軽なものなので、ぜひ日常生活に取り入れてみてほしい。
即効性ありの僧侶直伝ワザ
1つ目は、目を閉じたり開いたりするだけでできる「妄想クリーニング術」。まず目を閉じ、夫に怒られるかも、老後のお金が不安……など、頭の中に自然と浮かんでくる考えについて「自分は今こんなことを妄想しているんだ」とはっきり意識する。そして目を開け、視覚という身体の感覚に集中して、周囲の景色をよく見る。
すると、先ほど頭の中に浮かんでいたのは単なる妄想で、一時的な心の反応でしかない、現に今、目の前では何も起きてないということに気づくことができ、妄想という心の反応を減らすことができるのだ。
2つ目は、横になっているとき以外は常に地面に着いている足の裏の感覚を利用した「足裏リラックスワザ」。
例えば、目の前に怒っている夫がいるとする。すると、あなたの心はつい夫に反応し、不安や怒りなどでいっぱいになってしまうだろう。そんなとき、まず自分の足の裏に意識を集中させる。
足の裏って温かくてやわらかいな、カーペットって意外と硬いななど、足の裏の感覚にだけひたすら意識を向けていると、心はしだいに反応をやめて落ち着いてくる。その心の状態を保ちながら、残りの意識で夫に対応すると、反応を減らすことができる。
「相手に合わせてしまえば、いつまでも心の反応は治まりません。自分の心の状態を優先して人と接することが大切です」
ほかにも、試しやすい方法として「千歩禅」がある。
「千歩を数えながら歩きます。大地を踏みしめる足裏に意識を集中することが最大のポイント。初めから千歩は難しくても、徐々に歩数が伸びていくでしょう」
また、「沈黙タイム」もオススメだ。電車に乗り、知り合いに会わない遠くの喫茶店に1人で行く。
「週に1回でも、誰ともしゃべらない沈黙の時間をしっかりとるだけで、外からの刺激と離れて落ち着いた心を取り戻すことができますよ」