今年、フジロックが開催されたことについて、参加者としてどのように見たのだろうか。
「開催自体を“どうなの?”という人は、参加していない人は当然として、参加している人も多少なりとも思っていたはず。いろいろなフェスが中止になっていますから。ただいつまで中止を続けなければならないのか……。だから、“やるなら野外の広いところでやるフジだろ”という思いの人も多かった。密室のライブハウスなどではありませんから。このコロナ禍における実験的な意味合いもあったのでは。これでコロナの陽性者がフジロック関連で増えることがなければ、1つの成功例として“光”になってくれたらと思います。これくらいちゃんとして、客側もちゃんとしていれば……と。もちろんそれでも批判がくるのもわかりますが」
開催翌日に陽性なしと発表しても意味がない
フジロックを伝えた記事の多くは、“このご時世に何を……”という否定的なものが主だった。しかし実際の参加者が見た風景は上に書いた通りであった。もちろんすべてではないだろう。ステージも複数あり、そのすべてを来場者が把握することなど不可能だ。しかし、それは逆もしかり。《「反知性」》的で、《“密”に踊る若者》はそこかしこで見られたのか。そうではないはずだ。むしろ知性を振り絞り対策を行っていた運営スタッフが、そのような瞬間を、見逃し“続ける”ことなどありえるのだろうか。批判記事の筆者たちは、大多数がルールに従い、注意し合っていた風景は見てはいないのだろうか。
フジロックの環境を踏まえ、前出の岡田先生にフジロックについても話を聞いた。フジロックを主催する株式会社スマッシュは、フジロック最終日の翌日に「陽性者なし」を発表したが……。
「皆さんもご存知かと思いますが、コロナの潜伏期間はこの1年の研究でハッキリしてきていて、“感染者と接触してから5日プラスマイナス2日”つまり、3日から7日。この間、感染していても症状は出ないので、少なくとも7日間チェックしないと、そこで感染したかどうかはわからない。その後、熱が出た人もいるかもしれません。そのため音楽フェスが終了した翌日に“感染者はいなかった”という発表は何の意味もないですね。フェスでの感染がどうだったきちんと発表したいのであれば、7日間調べるべきだと思います。そもそも“ゼロ”かどうかをどうやって調べたのか……。何万人もいたなかで。本当にゼロだと言い切るためにはPCR検査をしなくてはならないのに」(岡田先生、以下同)
プロ野球やJリーグは、昨年から制限を設けつつも基本的には“通常通り”開催されている。
「普段と違うこと、“日常”ではない場面で人間の心に“隙間”が生じてしまうと思います。どれだけ対策をとっても主催者側の思いと参加者の熱気に差はあるでしょう。その意味で通常通り開催されてきているプロ野球とJリーグは、悪く言えばそこまでの熱気がなく、そのためきちんと対策に従っている。この時期に音楽フェスをやったことは、どれだけ“陽性者がゼロ”だとか言い訳をしても、まずかったのではないかと思いますね」
フジロックを主催する株式会社スマッシュに、潜伏期間を踏まえ、参加者やスタッフ関係者などへの“追跡調査”は行うのか問い合わせると、
「今後も時間経過とともに情報収集に努めて、その結果改めて皆様にご報告し、未来のフェスティバルにおける感染防止対策の改善につなげてまいります」(株式会社スマッシュ担当者)
コロナウイルスによって奪われた“日常”そして“非日常”。コロナとともに生きることがもはや日常となっているが、非日常が帰ってくる日は訪れるのか……。