時代錯誤な上司が若手職員を追い詰める
介護従事者を苦しめているのは実はモンスター高齢者だけではない。
「上司や先輩による言葉で、悩みが深まるケースもあります。『私も昔は触られたわ。若い人しか触られないんだから、触られるうちが花よ』とか、『うまくかわせるのがプロの介護職だから、自分なりにかわす技を考えてみて』などと、相談を受けても時代錯誤な受け答えをする管理職が珍しくないのです」
実際、セクハラ被害にあった高橋さんも、一度、上司に相談したが、「慣れるしかないわね」と言われたという。
「慣れるってどういうこと……?」と納得できず、高橋さんは介護の仕事にますます疑問を持つようになった。
いま中間管理職になっている50~60代の介護職の人は、「エロじじいや、わがままばあさんにうまく対応してこそプロ」という感覚で働いてきた世代だ。パワハラやセクハラに関する研修をきちんと受けた経験もなく、部下が受けた被害に対して鈍感で、彼らの不適切な受け答えが若いヘルパーの離職の決定打になることもある。
「被害を受けたヘルパーが勇気を出して上司に相談したとき、つらさをわかってもらうどころか、逆にプロとして未熟であるかのような言葉をかけられたら、『自分はヘルパーには向いていない』『転職したほうがいい』と感じてしまっても無理はありません」
介護をする人がいなくなる!
高齢者がヘルパーに行う不適切な介護ハラスメント。ある調査によると、介護職の74・2%が経験している。
一方、厚生労働省の統計によると、在宅介護のヘルパーは、60歳以上が全体の約4割を占めている。年齢的に、10年以内にはこの大半がヘルパーを引退すると予想されるが、後継者となる人材が、今後、介護業界に入ってくる見込みは薄い。
「団塊の世代が70代になって労働市場から引退したこともあり、ほかの業界も人手不足です。求人が多いなかで、低賃金なうえに、利用者のマナーに悩まされるような介護職に人は集まりません。子育てを終えた主婦もコンビニやスーパーにとられていますから、このままいけば、後継者ゼロのような状態に陥る可能性が高いです」
在宅介護の有効求人倍率は、実に15倍超(昨年9月時点)。求人を出しても人が集まらず、倒産する事業所も年々増えている。事業所がなくなれば、当然、介護サービスは受けられない。
「高齢の親に何かあっても要介護認定さえ受ければ、ヘルパーさんに掃除とか病院の付き添いなどをやってもらえると思っている人もいるでしょう。でも、いまのままだと介護認定を受けても、よほどコネがある人じゃないとヘルパーに来てもらえないかもしれません」
制度が維持できないほどの人材難のなか、せっかく介護業界に入ってきた若手ヘルパーの離職は致命的だ。
人手不足になればなるほどヘルパーの質は低下し、高齢者虐待といった問題も起きやすくなる。モンスター化しないよう心がけることは、自分が安全で質の高いサービスを受け続けるためでもある。