副反応に関するエビデンス
今回のHPVワクチンの副反応問題に関しては、すでにアメリカ、フランス、オランダでの研究、さらには名古屋市立大学が行った『名古屋スタディ』などから、HPVワクチンの接種が原因で日本で取り沙汰されたような副反応が増加することはないと結論づけられている。一方、がんに進展する可能性がある異形成の予防効果は明らかだったが、従来は子宮頸がんそのものの予防効果の証明は十分とはいえなかった。
しかし、2020年にスウェーデンでのHPVワクチン接種者と非接種者を比較した研究から、ワクチン接種者は子宮頸がん発症リスクが63%も低下することが明らかに。ワクチン接種のメリットはより強固なものになりつつある。
今回、国が接種勧奨再開に踏み切ったのは、こうしたエビデンスがほぼ出そろったことが背景にある。そのうえで平野医師は、今後本格的な接種が再開されるHPVワクチンのメリットについて次のように語る。
「HPVは100種類以上の遺伝子型があり、各遺伝子型によって発がんリスクなどは違います。日本で使われるHPVワクチンの主流は4種類の遺伝型のHPVに有効な4価ワクチン。このワクチンは子宮頸がん発症リスクが高い2種類の遺伝子型の感染予防に加え、性器に痛みを伴うイボができる尖圭(せんけい)コンジローマを引き起こす2種類のHPV遺伝子型の感染が予防できます。
尖圭コンジローマ自体は命にかかわるものではありませんが、痛みはありますし、性行為を制限されます。その意味では、接種した人は生活の満足度を下げずにすむメリットがあります」
現在WHOが公表している人口10万人当たりの子宮頸がん患者発生は世界平均が13・1人、アメリカは6・5人で先進国はおおむね10人未満だが、日本は14・7人。
平野医師は「日本は先進国の中でワースト1位。かつ先進国で唯一、発症率が高くなっている状況です。これは子宮頸がん検診受診率が低いことに加え、接種勧奨中止によるHPVワクチン接種率の低下が影響しているのは明らか」と断言し、こう訴える。
「私たち産婦人科医がなぜ口を酸っぱくして“HPVワクチンを打ってください”と言うのか?それは予防できるはずの子宮頸がんで、お子さんを残して亡くなるお母さんたちを目の前で見てきたからです」
子宮頸がんに至らなくとも、日本産婦人科学会の調査では高度異形成と診断される人は年間約1万6000人。この人たちには異形成部分を切り取る『円錐切除術』の実施が視野に入ってくるという。
「この治療を行えば命を落とすことはほぼありませんが、将来早産の可能性が高まります。異形成は20~30代が多いと言いましたが、20代で“赤ちゃんを無事に産めないかもしれない”という現実に晒されるのです。子宮頸がんは、ワクチンで予防できる可能性がある数少ないがん。だからこそワクチン接種をしない手はないと思うのです」
〈取材・文/村上和巳〉