作家を招いたイベントのほかにも、二村さんは新しいことにチャレンジしている。
そのひとつが『1万円選書』だ。店に来ることができない遠方のお客の役にも立ちたいと昨年6月に始めた。事前にメールでお客にアンケート(カルテ)を送り、その回答に合わせて選書した1万円分の本を配送する。
「私という人間を信じて書いてくださった、お客様の状況や悩みを読むと、情景が浮かび胸にしみます。それぞれの悩みや葛藤に寄り添うため、おひとりの選書に何日もかかることがあります。それでも、配送後に“読んでよかった”というメールをいただくと、涙があふれるほど幸せな気持ちになりますね」
申し込みが殺到したため、現在は抽選で続けている。
7年前から、本を通して育児を応援するイベントも始めた。結婚して母になった娘の真弓さんと赤ちゃんを連れて外出するたび、子どもに冷たい社会だと実感。憤りを覚えたのがきっかけだ。
毎月第3水曜日に行っている「ママと赤ちゃんのための集い場」を見せてもらった。この日集まったのは、生後3か月から2歳5か月までの子どもと母親の7組。光の降り注ぐ明るいフロアを、子どもたちが元気よく歩き回る。
臨床心理士の真弓さんが中心になって、絵本の読み聞かせをしたり、歌を歌ったり。紙コップにドングリを入れて作った楽器で合奏もした。
最後は「お悩みシェア」の時間。1人ずつ困っていることを話していく。
「イヤイヤがひどくて」
1人の参加者がそう話すと、ほかのママたちから「うちもそうやった」と声が上がる。真弓さんはアドバイスをし、親向けに書かれた本『子どもの心の育てかた』(佐々木正美著)と『子どもの「いや」に困ったとき読む本』(大河原美以著)を紹介した。
1歳7か月の息子と参加した母親(34)は、子どもと2人きりでずっと家にいるのがしんどくて、4か月のときから毎回通っているという。
「常にここで悩みを話させてもらっていて、スッキリして家に帰れるから、また頑張ろうと思えます。紹介してもらったイヤイヤ期の本は2冊とも読みましたよ。知識があるだけで、なんかうん、うんって、自分に言い聞かせられるから、本って、大事やなーと」
書店には常連客だけでなく、新しいお客も次々やってくる。
「二村さんに、自分に合う本を教えてほしくて、愛知県から来ました」
そう声をかけてきた男性客は、自分が過去に読んだ本をズラリと書いたリストを手にしていた。
二村さんは現在61歳。70歳になるまで、あと10年は頑張ると公言している。
自分を救ってくれた本と書店という場所を守るため、そして、ひとりでも多くの人にこれぞと思う本を届けるため、今日も笑顔で店に立つ。
(取材・文/萩原絹代)