がんを見ながら放射線照射を行う画期的な治療
「放射線治療は外科手術と違い、身体を傷つけることなく痛みはほとんどありません。治療中はただ台の上に寝ているだけ。本当に眠ってしまう患者さんもいるほどです」
麻酔をかけて、身体を切り開いて、がんと周辺組織を取り去る外科治療とは、身体の負担が大幅に違う。
「欧米に比べて、日本は放射線治療の実施率が低いですが、放射線治療を受ける患者数は年々増えています。現在は、年間27万人のがん患者さんが放射線治療を受けているとされ、2025年には35万人になると見込まれています」
そもそも、放射線治療とはどういうものか?
「一般的な放射線治療は、リニアック(直線加速器)といわれる装置を使い、電子を光の速度の99%以上に加速した高エネルギー電子線、またはエックス線をあてる方法です。がんの細胞内の遺伝子にダメージを与え、がん細胞が死滅します」
現在、このリニアックを使っている病院が多い。
「放射線治療にはリニアックのほかに、陽子線、炭素線、中性子線といった治療もありますが、装置が大がかりで、導入コストもかかるため、日本で治療が行える病院は数えるほどしかありません。また、健康保険が適用されない治療もあります」
昨年は、BNCTという新しい治療も登場し、粒子線治療は先進医療として一歩先を進んでいる。しかし、まだ粒子線治療は一般的ではなくハードルが高い。
そこで、昨年末に千葉大学病院が導入し、今年から本格稼働した最先端治療「エレクタユニティ」が放射線治療の世界を大きく変えるのではないかと期待されている。
エレクタユニティの大きな特長は、放射線放射装置と1・5テスラという高精度のMRIが合体していることだ。放射線治療の直前と治療中、がんの位置をリアルタイムで可視化できるというのだ。
「外科手術や内視鏡手術と同じように治療が行えるため、確実性が上がり自信をもって治療が行えます」
もう、元の治療法には戻れませんね、と宇野先生。
「今までの放射線治療の流れは、あらかじめCTやMRIをとり、そのデータをコンピューターで分析し、照射プランを作って装置に送ると、プランどおりに機械が放射線をあててくれていました。しかし、がんの位置は消化器の状態などにより日々変わり、呼吸によっても位置がずれてしまいます。例えば、大腸にガスがたまり、前立腺がんの位置が変わってしまうということもあるのです」
今までは、現場で患部が見えず、機械任せの治療だった?
「画像誘導放射線治療(IGRT)という治療で、直前にCTで撮影し確認をしていました。しかし、そのCTは検査で使われるものより精度が落ちるといった難点がありました」