野菜ジュースばかりじゃない酵素ドリンクも気休め!

 健康に関係なさそうなのは手軽な野菜ジュースばかりではない、高額なあのドリンクもだ。通販や健康食品ショップで注目を浴びている酵素関連商品。“酵素ドリンク”や“粉末酵素”といったさまざまな形で売られている。特に酵素ジュースはファスティング(断食)やクレンズ(固形物をとらずジュースだけで過ごす)に使うドリンクとしても人気だ。

 そもそも酵素とはタンパク質だ。人間の身体の中には、摂取した食物を消化して栄養に変える消化酵素、代謝機能や修復、タンパク質やビタミンの合成、毒素の排出など、生命活動や生命維持に欠かせない役割を果たす数多くの酵素が存在する。

 何らか効き目がありそうだが、酵素ドリンクやサプリは美容や健康に有効?

「まず“その酵素は何の酵素なのか?”と聞きたいですね。酵素には多くの種類があり働きがまるで違う。代謝のパートによって必要な酵素が違うのです。でんぷんを分解する酵素はアミラーゼ、タンパク質を分解するのはプロテアーゼ、リパーゼは脂肪を分解する。酵素という物質があるわけではないので、種類は重要ですね」(西脇医師、以下同)

多くの商品が「やせる」と謳っている
多くの商品が「やせる」と謳っている

 実際、例えば、市販品では、原液酵素、生酵素、国産酵素などの表記はあるが、“何の酵素か”を明記した商品は見当たらない。

 一方で「酵素は加齢とともに減少する」「暴飲暴食、乱れた生活習慣で酵素が大量減少」と不安をあおるような広告も散見される。

「体内にある酵素はそんなに消費されません。ですから、そもそも補充する必要はない。広告の作り手がわかってないんです。酵素はそれ自体が変化するのではなく、Aという物質をBという物質に変えるための触媒として体内で働くものなんですよ」

 その際、酵素が働くための補因子が必要となる。

「この補因子は体内で日々消費されます。例えばタンパク質が分解され、アミノ酸になって代謝され、セロトニン(機嫌よく過ごすための物質)とノルアドレナリン(やる気を出す物質)になる。それを変化させるための酵素と、酵素の働きを促進するための補因子があります」

 補因子は主にビタミンC、B6、鉄、亜鉛を指す。ほかにもあるが主にこの4つだ。これが不足していると酵素の働きが悪くなる。

「先ほどの例で言うと、セロトニンやノルアドレナリンが出なくなるとうつっぽくなる。例えば生理で出血の多い人などは鉄欠乏性貧血になり、補因子の鉄不足で酵素が働かず、うつになる可能性も。もし補充するなら酵素ではなく、補因子です」

 酵素は、生や粉末、サプリやドリンクなどの形で売られている。それらの効果に違いはあるのだろうか。

「どれも特別悪いものでもありませんが、飲むだけで健康増進になるというものでもありません。これで元気になるなら精神的にはいいと思いますが、栄養的な効果はさほど望めないと思いますよ」(前出・植田さん)

 酵素は酵素でも、発酵食品のように分解酵素を含む食品なら健康によいという説も。ただし、基本的には酵素を口から摂取しても、胃腸で分解されるだけだ。

 酵素は基本、タンパク質なので、そのまま酵素として吸収されることはない、と西脇医師も語る。

タンパク質は必ずアミノ酸に分解されますから、酵素としては体内で機能しない。生だろうと、ドリンクタイプだろうと、何の意味もありません。世の中のコラーゲン商品などと一緒ですよ。ドリンクなり食品なりでコラーゲンをとったところで、別にそれがほうれい線に届いて効くわけじゃないでしょう?」

 健康によかれと思って購入した高額の酵素商品が、なんの意味もないものだったとは。イメージ商法に乗せられる前に、基本的な知識を身につけるのが健康への近道なのかもしれない。

西脇 俊二 医師(撮影/吉岡竜紀)
西脇 俊二 医師(撮影/吉岡竜紀)

教えてくれた人は……西脇 俊二 医師
●弘前大学医学部卒業。精神科医、精神保健指定医、認定産業医。ハタイクリニック院長。『断糖のすすめ 高血圧、糖尿病が99%治る新・食習慣』(ワニブックス)など著書多数。テレビ出演のほか、ドラマ『僕の歩く道』『相棒』『グッド・ドクター』、映画『ATARU』などの医療監修でも活躍。

<取材・文/ガンガーラ田津美>