気になる原価率は?人件費を抑えられる
「ハイボールやレモンサワーは、お店で提供するアルコールの中でも原価率が低く、飲み放題との相性がいい」
と話すのは、調達・購買業務コンサルタントで、未来調達研究所所属の坂口孝則さん。
「アサヒビールを基準とした数字ですが、生ビールの場合、19リットルで価格は約1万円。チューハイは、19リットルで約6300円。ハイボールは、10リットルで約5500円です」
店舗によってジョッキ容量やお酒と炭酸の配分は変わるだろうが─、と断りを入れたうえで、
「生ビールを、一般的といわれる350mlに換算すると、ジョッキ単価は184円。お店での販売価格を550円とした場合、原価率は33%です。一方、チューハイ、ハイボールは、ジョッキ容量を250mlとすると、前者のジョッキ単価は83円、後者は138円です。同じく販売価格を同じ550円に設定すると、それぞれの原価率は15%、25%になります」(坂口さん)
もちろん、価格や時間といった飲み放題の設定次第によって原価率は変わってくる。だが、ビールと比べると、1杯当たりの原価率は安価であり、卓上サワーの飲み放題が増えている一因になっていることは間違いない。
ちなみに、ホームタップのようなサブスクサービスの原価はどうなっているのか? 同じくアサヒビールの『ドラフターズ』を例に解説する。同サービスは、月額税込み7980円(月額基本料金:2990円+ビール料金2リットル2本:4990円)だ。
「4リットルを350mlのグラスで飲む場合、ジョッキ単価は698円ですから、飲食店よりも割高といえるでしょう。追加注文をしてプラス3リットル、つまり計7リットルを飲む計算だと、先の550円まで下げられます。ただ、コロナによって家計の外食費は約3割減少しました。その3割の行方が、“宅飲み”といった自分時間の豊かさの創出に流れていると思います」(坂口さん)
たしかに割高かもしれないが、自炊すれば食費のコストを抑えられるなど、アイデア次第でぜいたくな食卓を演出できる。そうしたニューノーマルの生活志向が、内食における蛇口酒人気を支えているといえそうだ。
『ラムちゃん』のような「蛇口酒・コック酒」飲食店が人気の背景は、まだある。前出・片岡さんが教える。
「コロナ禍、アフターコロナの中で、店のスタッフとの接触をなるべく避けたいというお客様も少なくありません。卓上サーバーの設置に加え、QRコードを読み込んでスマホ上からもオーダーを可能にするなど、接触の機会を減らす工夫を進めた結果、スタッフを呼んでオーダーを追加する、グラスの交換といった作業が減少しました」
消費者がセルフで楽しめる時間を増やすことで、結果的に人件費を抑えることにつながる。また、こうした店舗のスタッフは、接客の対応に余裕があり“感じ”がいいという評判も。四方からオーダーの声をかけられ忙殺されれば、イライラしてしまう。だが、蛇口酒がある店ならば、ドリンクのオーダーは激減する。スタッフの働き方に変化が生じるのは明らかだろう。
それぞれのテーブルにサーバーを設置して客にセルフで注がせるサービスは、セット注文や小皿での提供が多い焼き肉業態と相性がよく、
「スタッフの数も抑えやすい」
と、坂口さんは指摘する。コロナによる飲食店の苦戦は、まだ続くだろう。だが、「蛇口酒・コック酒」が人気を集めているように、アイデアひとつで話題店になることだってある。
「その店に行く口実ですよね。“自分でハイボールを注げるお店があるから行ってみようよ”という具合に、口実があることが望ましい。今後の外食産業というのは、口実を作ることがポイントだと思います」(坂口さん)
わざわざ外食する理由があるかどうか─。これまで以上に自宅ではできないことを提供しなくてはいけない飲食店は、コロナによって新しい局面を迎えている。
さかぐち・たかのり
未来調達研究所株式会社所属。調達・購買、原価企画を担当し、バイヤーとして200社以上のコスト削減、原価企画を担当した仕入れ等の専門家。日本テレビ系『スッキリ』等、出演中。著書『調達・購買の教科書』など多数
<取材・文/我妻アヅ子>