母子生活支援施設を転々としている、元不良の母親がいた。施設にいる間は子どもを学校に通わせていたのだが、交際相手ができて施設を出ると、とたんに子どもを学校に通わせなくなった。結局、役所の職員が家に踏み込んで、子どもを学校に行かせるように説得したという。
役所が母親に、なぜ子どもを学校に行かせないのかと尋ねたところ、
「“小学校には絶対に通わせなければいけない”なんて知らなかった。義務教育なんてものがあるなんて、誰も教えてくれなかった」
と言い訳をしたという。
自分が虐待を受けてきた人が、子どもに虐待をしてしまうケースは少なくない。母子支援施設にもその負の連鎖が断ち切れない人がいた。
「元アルコール依存症や元違法薬物依存症の人もいました。“元”というか、実は現役で依存症の人がほとんどだったと思います」
母子生活支援施設で暮らし、生活保護を受けていたとしても、行動制限はほぼない。もちろん違法薬物は法律違反だからありえないが、酒は好きに飲むことができる。
「昼間からベロベロに飲んでしまう人も。直接は知らないですが、パチンコなど公営ギャンブルをやっている人もいたみたいですね」
ある日、田口さんは気になって、役所の人に“生活保護で暮らすうえでの禁止事項”があるか聞いてみた。
「生活保護というのは罰ではありません。受給しているからといって、何をしてはいけないとか、買っちゃいけないとかはない。好きにしてください」
と言われた。
「生活保護で暮らすという時点で、やっぱりどうしても罪悪感を感じてしまう。だから、そう言ってもらえてありがたかったですね」
生活保護を申請すると、三親等以内の親族に“本当に援助できないのか?”の確認がいくといわれている。身内に貧窮が発覚するのが嫌で、生活保護申請をためらう人もいるという。実際のところはどうなっているのだろうか。
「私の場合、三親等どころか両親にすら連絡はいってなかったです。誰にも知られず生活保護を受け、母子生活支援施設で生活することができました。もちろんケース・バイ・ケースなんでしょうけど、意外と私のようなケースも少なくないようですね」