葬送のプロも認める真保さんの「神の手」
京都にある葬儀会社『公益社』で専属エンバーマーとして働く竹ノ谷梨沙さん(41)は、エンバーマー養成校で真保さんと同期生だった。竹ノ谷さんが当時を振り返る。
「私たちは2期生で、同期は3人だけでした。真保さんの第一印象はポーカーフェイス。医療機器の営業職だったから理科系の知識も豊富で、いろいろなことを教えてくれましたね。結構おしゃれで、カッコつけしいのところもあって、自信満々なのに黒板に書く漢字を間違えたり、かわいいところもありました(笑)」
実習の際、真保さんに驚かされたことがある。
「座学では真保さんと一緒の教室で学んでいましたが、実習先は別々でした。ある日、湯灌(遺体の身体を洗う施術)の実習で葬儀社に行くと、講師として突然、真保さんが現れたんです。実習を兼ねて葬儀社でバイトをしていたんだとか。まるで長年やっているプロの口上のように湯灌の説明をしていて、カッコいいと思いましたね」
養成校の授業では、ご遺体に施すためのメイクも学ぶ。
「真保さんは化粧なんて苦手そうなのに、先生に何度も質問しながら、化粧の技術を磨いていました。自分に化粧する授業で、私よりきれいになっていて悔しかったほど(笑)。そのときの真保さん、目がキラキラして、輝いて見えましたね。なんでもスマートにこなしているようで人一倍、努力の人なんだと思います」
養成校に入学してくるのは、ほとんどが高校を卒業したばかりの若者だ。しかし、なかには真保さんと同様に、社会人経験を経て入学する人もいた。真保さんの1年先輩にあたる馬塲泰見さん(54)も、そのひとり。異色の経歴を持つエンバーマーで、現在は日本ヒューマンセレモニー専門学校で実技指導を行っている。
「以前は日本にある外国の大使館の職員でした。外国人が亡くなると、エンバーミングをして本国へ送り返すのが当たり前だったので、エンバーミングにはなじみがあったんです」
10代に交じり切磋琢磨した級友について、馬塲さんは「真保くんは、よくも悪くも細かい」と笑い、さらにこう続ける。
「彼は早くから独立・開業したので、葬送業界の事情に詳しく、いろいろな情報や知識を持っています。移動式のエンバーミング車両を作るなど、新しい取り組みにチャレンジしていく姿勢は見習いたいですね」
関係者の誰もが、真保さんのまじめさ、理論的なところや、確かな技術を口にする。
東京都大田区で3代続く『明進社金子葬儀社』の金子直裕さん(52)は、真保さんとは12年以上もの付き合いになる。
「うちは真保さんにしか仕事は頼みません。技術がほかと全然違うんですよ」と、金子さん。特に、「修復する技術がすごい」と絶賛する。
「ご遺体の欠損などを驚くほどきれいに修復してくれます。業界ではこの人だけでしょうね。僕らは“神の手”と呼んでいますよ」(金子さん、以下同)
あるとき、金子さんのもとに、電車で轢かれた遺体が運び込まれた。
「ご遺体は頭部が半分ない状態でした。真保さんは頭蓋骨の中に櫓を組んで修復、見事に元の状態に作り上げた。ご遺族も感激していましたね」
山梨県の山中で見つかったという、首つり自殺で命を絶った20代男性のエンバーミングも、金子さんは忘れられない。
「夏場だったので全身に虫がついていたんです。納体袋に殺虫液を流し込み処理しましたが、虫は駆除できたものの、身体中に小さい穴が開いてしまった。真保さんは、その穴をすべてきれいに塞いでみせたんです。どうすればご遺族といい対面ができるか、徹底的に考える人なんですね」
遺族は警察で、すでに悲惨な状態の遺体と対面していた。だからこそエンバーミング後にきれいになった遺体を見て、より感激したという。
エンバーミングを使った葬儀を推奨する『アイフューネラル』代表の寺中毅頼さん(52)は、真保さんとは親しい間柄だ。
「事件や事故のご依頼を受けて、真保さんと一緒に立ち会うこともあります。
驚いたのは、電車での人身事故のご遺体でした。僕なんかからすると“修復なんて、とても無理”と思えるような状態だったんですが、真保さんはご家族が対面できるよう根気よく、丁寧に修復していくんです。感心しましたよ」