目次
Page 1
ー 教会の“もうひとつの顔”
Page 2
ー 元ヤクザの牧師・鈴木啓之さん
Page 3
ー 「人間の心をなくしてた」
Page 4
ー 妻子を捨て、命がけの逃亡
Page 5
ー 無事を祈り続けた妻の姿
Page 6
ー 生き直しを諦めない牧師
Page 7
ー 誰ひとり見捨てない覚悟

 

 千葉県・柏駅から、バスに揺られること20分。のどかな街並みの一角に、目的の建物はあった。

 一見するとモダンな公民館のようだが、三角屋根のてっぺんに、青空を背景に真っ白な十字架が掲げられている。

「どうぞ、どうぞ。さあ、中へお入りください」

 穏やかな口調で招き入れてくれたのは、シロアムキリスト教会の牧師・鈴木啓之さん(66)。チェック柄のジャケットが、ダンディな印象だ。

教会の“もうひとつの顔”

 12年前にこの場所に移転した教会は、広々とした礼拝堂を持つ。壁に掲げられた十字架が神聖な空気を放っている。

「毎週日曜日は礼拝を行います。会員制ではないので、どなたでも自由に入れます。もちろん、クリスチャンでなくてもいいんですよ」

 すこぶる敷居が低いのは、この教会が“もうひとつの顔”を持っているからだ。

「ここには薬物やアルコール依存症、刑務所で罪を償って出所された人、さまざまな事情を抱えた人が相談に来ます。最近は社会からこぼれ落ち、ネットカフェ難民っていうのかな、いよいよ生活に行き詰まって助けを求めてくる人も多いですね。今朝もそういう電話があったばかりです」

 府中刑務所では教誨師として受刑者と向き合い、出所後の支援にも力を尽くしている。

 この教会ではNPO法人『人生やり直し道場』の理事長を務め、札幌にある関連の教会では、『平成駆け込み寺』を主宰。教会の一角で合宿生活をしながら、社会復帰を目指す人々と、家族のようにかかわっているのだ。

 池田進さん(仮名・50)も鈴木さんのもとに住み込んで更生を目指したひとり。

「鈴木先生との出会いは、僕が覚せい剤で服役中に教誨師として面談してくれたのが最初でした。そのときは“出所したら訪ねます”なんて調子よく言ったけど、本気じゃなかった。

 でも出所後にまた捕まって、さすがにクスリをやめたいと先生に手紙を出したら、すぐに会いに来てくれたんです。“いつまでも待ってる”と言ってくれたことが、どれだけ励みになったか」

 大学の医学部を卒業したものの、覚せい剤で逮捕と服役を繰り返したため、出所したときは、40歳になっていた。