病気になっても受けない手術:食道がんの手術
「食道がんの手術は大きく胸を開いて食道を切除し、大きくお腹を開けて胃を用いて再建するという大手術で、8~10時間くらいかかります。手術自体のリスクが高く、後遺症も重い場合が多いです」と語るのは水上先生だ。
がんができた食道を手術で切除し、その代わりに胃を管のように引き延ばしたり、腸を使うこともあったりと、身体への負担が大きい手術だ(下図参照)。
「手術自体は無事に済んでも、術後に合併症が発生する確率は胃がんなどの治療に比べて高くなります。また、生活の質の低下も否めません。
胃が十分に働かなくなるため、食事の量は大きく減り、食事が飲み込みづらくなることも。また、食事や逆流した胃酸が肺に入ることで、誤嚥性肺炎になる可能性も高くなります」(水上先生、以下同)
歌舞伎役者の十八代目中村勘三郎さんは、2012年7月に食道がんの手術をしたものの、同年12月に57歳の若さで亡くなった。術後に誤嚥性肺炎を起こし、その肺炎がきっかけで重い呼吸不全に陥ったのだ。
「勘三郎さんの死因となった急性呼吸窮迫症候群という重い呼吸不全は、死亡率が約40%と非常に高いもの。食道がんの手術には、こうしたリスクもあるのです」
病気になっても受けない手術:膵臓がんの手術
女優の八千草薫さんや元プロ野球監督の星野仙一さんなど、膵臓がんで亡くなった有名人は数多い。膵臓がんは見つかったときには手遅れというイメージが根強く、一刻も早く手術したい気持ちもわかるが、一度立ち止まってよく考えてほしいと水上先生は言う。
「膵臓がんの7割ほどが、十二指腸にもっとも近い膵頭部にできます。その膵頭部のがんを切除する膵頭十二指腸切除術という手術は、お腹の手術では最も大がかりな手術のひとつで、リスクが高いです。
また、膵臓から液が漏れて周りの臓器や血管を溶かしたりする『膵液漏』など、合併症の発生率は40~50%にも上るといわれ、術後死なども考えられます。さらに、手術して何とか落ち着いたと思ったころに肝臓転移が見つかり、死に至るということもざらにあります」(水上先生、以下同)
せっかくつらい手術から回復したのに別のがんが進行してしまっていては元も子もない。手術をしたくない場合、どうすればいいのだろうか。
「手術の代わりの方法としては放射線と抗がん剤を組み合わせる方法があり、『メリディアン』のように放射線治療とMRIが一体化した特殊な装置もあります。無理に手術しなくても、今はいい治療法があるので、私ならそちらを選びます」