奥田さんが進むべき道を示してくれた
「息子たちがサムエル幼稚園に入れたのは不幸中の幸いでした。もし、奥田先生に出会わなかったら、どうなっていたか……。将来、家にひきこもって親に暴力を振るい、最後は親が自分の子どもを殺さないと終わらないという可能性もあったと思っています」
真剣な顔でそう話すのは川島さん夫妻。年長と年少の息子は2人とも自閉症だ。
入園前、まだ2歳の長男を外に連れていくと勝手に走り回り、杖をついている人に突進したり、他の子のおもちゃを取ろうとダッシュしたり。他人に迷惑をかけ通しで悩んでいた。
市の療育センターに相談したが、「とことん相手して」「見守って」と言われるばかり。親は召使い状態になり、「これが一生続くのか」と疲れ切っていたとき、人づてにサムエル幼稚園のことを知り、「絶対にここだ!」と思ったそうだ。
年少で入園後、最初の保護者研修会で【手つなぎ歩き】を教わった。奥田さんが考えた独自の方法で絶対に手を振りほどかれない。毎日続けたら効果は抜群で、半年後には手をつながなくても飛び出さなくなったという。
「イオン行く。イオン行く」
街で看板を見かけるたびに、しつこく言い続けた時期もある。こだわりが強く何かに執着するのも自閉症児によく見られ、要求が通らないと泣いて大騒ぎする。
奥田さんに相談し【ブロークンレコード】を試した。「イオン行く」と言われても、「イオンまた今度」と壊れたレコードのように機械的に返す。あえて無視して夫婦で会話を続ける方法と併せて続けると看板を見ても素通りできるようになった。
父親は「親が主導権を握ることが大事なんですね」と実感を込めて話す。
諦めずにとことん向き合う
「油断すると子どもに主導権を取られちゃうので、諦めずにとことんやる。さらに強烈な次男がいるので大変ですよ。まだ人間の範疇に入っていないので(笑)」
年少の次男は症状が重く、かんしゃくがひどい。机をバンバン叩き、「あーあー」と声は出すが言葉が出ない。放課後、療育も受けているが、奥田さんから提案された訓練を家でも毎日やっている。
例えば、発語につながる【模倣】。ほっぺ、頭、バンザイなど親と同じ動作ができたら、小さなお菓子をあげる。模倣の種類は増えてきたが、「え、お」と声を出しながら口の形をまねさせようとすると嫌がるので、なかなか次のステップに進めない。長男にちょっかいを出されて追いかけっこが始まり、訓練が中断することもしょっちゅうだ。
2歳違いの自閉症児2人を育てるのは、想像を絶する苦労があるだろう。嫌になったりしないのかと聞くと、母親は明るい表情で否定した。
「問題行動をしても、今は解決方法を逐一教えてもらえます。それを一生懸命やっていると忙しいから、変なことを考えたり、クヨクヨしている暇はないです(笑)」
父親も笑顔で同意する。
「うんざりする局面はあるんですが、われわれの回復はすごく早くなりました。今は将来の見通しがふわっと立っているのでうれしいですよ」
奥田さんが進むべき道を示してくれたおかげで、川島さん夫妻は驚くほど前向きだ。