いつの時代も女性にとって体重、ボディラインに関する悩みは尽きない。“やせている”のは美なのだろうか。ジャーナリストの加藤秀樹氏が現代女性のストレスと心の闇を考える。
ドラマでもかなり身近な摂食障害
11月上旬に放送されたNHKの朝ドラ『舞いあがれ!』でヒロインのダイエットが話題になった。また、フジテレビ系の月10ドラマ『エルピス─希望、あるいは災い─』では、ヒロインの摂食障害を思わせる描写が注目されている。現代において、ダイエットはもとより、摂食障害もかなり身近になっていることが、こんなところからもわかる。
では、世の女性たちはいつごろから、ダイエットに取り組み、摂食障害に悩まされてきたのか。
有名なのは、19世紀オーストリアの皇妃エリザベート。172センチで50キロ弱、ウエスト50センチという体形を維持するために、毎日体重計にのり、増えていれば夕食を抜くなどしていた。
やせたい女性のなかには、「体重計は処刑台」などとたとえる人がいるが、まさにそんな心境だったのだろう。
また、エリザベートはスイーツの大量買いや強迫的な運動も行い、死に憧れるという心の闇も抱えていた。世界最初のダイエッターとも、摂食障害者とも評されるゆえんだ。
ただ、昔の庶民は飢えをしのぐので精いっぱい、わざわざやせようとする余裕はなかった。
それこそ、日本で最初の家庭用体重計が発売されたのは1959年のこと。その翌年、和田静郎の提唱するダイエット法が「皇后さまもおやせになった」という触れ込みで流行する。
また、'67年にはモデルのツイッギーが来日してミニスカートブームが起き、'70年には歌手の弘田三枝子が自身の体験をもとに書いたダイエット本がベストセラーになった。
'77年には、こんにゃくを使った健康食品『ハイマンナン』が「食べた~い、でもやせたい」というCMでヒット。'79年には『たかの友梨ビューティクリニック』が設立された。
というように、日本人のダイエットは戦後になってから広まった。それも、皇族から海外モデル、歌手へ、という流れで、庶民レベルに降りてきたという印象だ。
そして、'80年。カリスマ的な女性が画期的なダイエット法をひっさげて登場する。鈴木その子だ。
のちに「美白の女王」としてテレビに引っ張りだことなるが、その原点は「白米」へのこだわり。当時は太りやすいイメージのあった白米を食べるダイエット法を提唱して、これが支持された。
筆者は'92年に、健康雑誌で鈴木をインタビューしたことがある。銀座にある彼女の店に出向いたところ、そのまま彼女の豪邸に連れていかれ、手を握られるなどした。といっても、変な意味ではなく、
「私は手を握っただけで、健康かどうかがわかるの。うん、あなたは健康ね」
という、独自の健康診断だったのである。
ただ、その態度に宗教家っぽいものも感じた。いや、現代女性におけるダイエット自体「やせたら幸せになれる」といった幻想が絡んでいることからどこか宗教的なのだが、鈴木の場合はもっと切実な背景があった。
専業主婦だった彼女がダイエット本を書いたのは、息子の夭折(ようせつ)がきっかけ。摂食障害をこじらせ、転落死した息子のような悲劇をなくしたいという祈りに衝(つ)き動かされていたのだ。
とはいえ、あらゆるダイエットは諸刃(もろは)の剣(つるぎ)でもある。健康や美につながることもあれば、そこから病むこともあるからだ。