NGワード(8)「病院行ったほうがいいよ」「入院したら?」

 今回、当事者のひとりに「NGワード」について尋ねてみた。体重は20キロ台前半、母親でもある若い女性だ。

 挙げてくれた言葉には「もっと肉つけたほうが」とか「吐いてるの?」といったもののほか「病院行ったほうがいいよ」「入院したら?」というものが。その理由はこうだ。

「もう慣れてしまっているため、育児や炊事などはできているので。口出しするくらいなら買い物などの重労働を手伝ってよ!って(笑)」

驚きの数字だが、一時は21.2キロまで低下。18.5~25が普通とされるBMI(体格指数)はひとケタだ
驚きの数字だが、一時は21.2キロまで低下。18.5~25が普通とされるBMI(体格指数)はひとケタだ
【写真】骨と皮だけの腕に浮かぶ血管…点滴で栄養を補うことも

 ちなみに、必要なケアは病院で受けたりもしているという。

 彼女に限らず、干渉されるのをいやがる人は多い。やせすぎている人の親や夫には、娘や妻の体調について意外と無関心な人もいるが「それがかえってよかった」と回復後に語る人もいる。ケース・バイ・ケースとはいえ、必要なケアさえできていれば、本人の気持ちにある程度任せるべきことかもしれない。

 なお「OKワード」についても、この女性に聞いてみた。

OKワード(1)「しんどくない?」

 この女性いわく「身体しんどくない?」のような言葉は「心の安定につながる」という。寄り添うような本気の心配なら、ちゃんと伝わるということだろう。

 そして「努力を認めてもらえた感覚になれる」とも。これもまた、多くの人に共通するのではないか。

 冒頭で、うつの人に「頑張れ」は禁句という話をしたが、摂食障害も同様。それよりも「頑張ってるね」というスタンスで、本人の努力を褒めたり、肯定したりすることがプラスになるはずだ。

OKワード(2)「この花はあなたに似てる」

 こちらは高校時代、20キロ台半ばになっていた人が祖母にかけられた言葉だ。

「この花は、あなたに似てとってもきれいね」

 彼女は当時、やせていることで安心感を得つつも周囲に迷惑をかけているという罪悪感も抱いていた。また、心配されても褒められることはなかったため、これがうれしかったという。拒食状態の人は動物的というより、どこか植物的で、自らもそうあろうとしていたりするから、そこが花のように見えたのかもしれない。

 女性にかける言葉としても、適切な気がする。褒め方はいくらでもある、ということでもある。

OKワード(3)「みずみずしくなったね」

 NGワード(7)で触れた「健康(元気)」や「回復」という言葉が「太った」に変換される問題についても、言い換えは可能だ。ある当事者は、医師から「みずみずしくなったね」と言われ、変化を前向きに受け入れられたという。

 この医師は過去の経験から、当事者が不快に感じにくい言葉を見つけたのだろう。専門家でないと経験が積めないとはいえ、その人が何をいやがっているかはやりとりのなかでわかってくる。それを懸命に探ろうとすること自体が、相手にとって、寄り添ってもらえているという手ごたえにもつながるはずだ。

 結局のところ、NGワードかOKワードかを見極める鍵は思いやり。よりよいコミュニケーションの基本はそこに尽きるのだ。

加藤秀樹(かとう・ひでき)●中2で拒食症の存在を知り、以来、ダイエットと摂食障害についての考察、その当事者との交流をライフワークとしてきた。著書に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社)がある