肝臓に転移、抗がん剤を飲んでいたのに
ゆっくりしたペースで非常勤医師の仕事にも復帰。体重が40kg減った半年後の12月、ふと「あれっ、俺生きとるぞ」と思った。
「それでふぅっと全身の力が抜けたんです。胃なし人になって、一度の食事で食べられるのは小さなスプーンに米粒10個程度だけど、自分は生きたまま。どうせしっかり食べていても死ぬときは死ぬんだし、と。焦らなくなったら、やる気が出てきました」
そんなときに朝日新聞の読者投稿欄が目に入り、がん闘病をつづった文章を送ってみた。それが掲載されて大きな反響を呼び、取材を受ける。
妻の思いつきから「消化液が逆流してきたら、アクエリアスで押し流して飲み込む」という、逆流の対処法が見つかったことも大きかった。
「医学に基づいたもんじゃなく、あくまでも私の場合。なぜかアクエリアスで楽になりました(笑)。なんでも試してみて自分に合うものを見つけたらええやんと考えるように」
しかし、腹部右上に鈍痛が出始め、2019年、CT検査で肝臓への転移が判明。
「グリベックを飲んでいたのにと妻は泣きました。私もショックでしたが、もう余命を意識するのはやめようと。転移の審判が下された4月8日を第1日として、生きて過ごした日々を“足し算”して生きていこうと決めました」
胃の手術後が大変だったので手術はやめ、以前より強い抗がん剤「スーテント」を始めることにした。4週間服用し、2~3週間は服薬を休むという周期で行う。
「副作用が粘膜に出るんです。手のひらや足裏、お尻の穴とか。口の中はただれやすく、味覚も侵されます。歯磨き粉は通常のものが使えなくなり、最近、歯周病になりました」
スーテントの薬代は大橋先生の場合、1日五千円ほど。高額療養費制度を利用しても治療費は月10万円を超える。
「正直、毎月だと厳しいです。それに再発や転移はめちゃくちゃ怖い。どこかが痛ければすぐ病院で検査していますよ。
完治という奇跡は望めないけれども生きることは諦めたくない。2022年の元日、肝臓への転移から千日を突破しました。ご飯も10粒から、小さな茶碗の半分を食べられるようになったんです」