幼なじみのような関係を部下とつくる
ネガ・ポジ反転にクッション言葉、Iメッセージを活用すれば、部下指導もスムーズに。しかしこれらはあくまで応急処置。若者たちの心理を真に理解したとはいえず、根本的な関係性は変わらない。
「そこで昨今企業がこぞって目指しているのが“心理的安全性”の高い組織づくりです」
と小倉さん。“心理的安全性”とはハーバード・ビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授が掲げる概念で、Googleが率先して導入し、その成功例を見て今世界中の企業が取り組んでいるという。
「Googleが業績のいいチームを分析したところ、心理的安全性が高いことがわかった。心理的安全性とは何か、を要約すると、みんなが言いたいことを遠慮せずに言い合えて、それでいて傷つかず、仲良しのままでいられる関係性。いわば幼なじみ感覚の関係です」
幼なじみ感覚ならば、本音で話せて後腐れなく、関係性は良好のまま。とはいえ実際にその関係性を会社に持ち込むとなるとハードルは高い。物言えず頭を抱えているのが昨今の上司であり、“それができたら苦労はしない!”という声が聞こえてきそう。
「幼なじみのような関係性とは、世にいう信頼関係。それをコツコツつくっていくしかない。部下と上司の間で“この人にはここまで言っても大丈夫なんだ”という体験を少しずつ重ねていく。
例えば、1 on 1ミーティングを使って週に1回上司と部下が1対1で話をする場を設け、将来のことや会社に対する不満、家族のことなど、日頃できないさまざまな話をすることで、関係性を築いていく。それはコミュニケーションスキルを身につけるということでもある」
部下とコミュニケーションを重ね、信頼関係は高まった。だがそれで終わりではない。
「ゆるすぎるから辞める」と言われないよう、やりがいを感じてもらう必要がある。
「若者が会社に見切りをつけるのはなぜか、彼らの不満を分けると大きく2つ。ひとつは経営方針などコンテンツに関する不満で、こちらは意外と少ない。もうひとつはプロセスに関するもので、実は不満の多くがこちら。ひと言も相談せずに勝手に決められたなど、手続きに関する不満が多い。ならばその手続きをきちんと踏んであげればいい。
モチベーションのいちばんの源泉は、自分で決められること。上司の指示命令で決めず、自分で選ばせてあげる。自己決定性というのが部下にとって仕事のやりがいに直結する」
部下に必要以上に配慮し、仕事の軽減を図ってしまう。これはまったくの逆効果で、部下からやりがいを奪い、キャリア不安を生むことに。
「ゆるくない職場とは、単に厳しい職場ではない。自由であり、責任を取らせる職場」
と小倉さん。何より部下に裁量を任せる度量が上司の側に必要だと話す。
「“あなたの自由にやってみて”と部下に任せてあげる。自己決定させ、責任を持たせて最後までやりきらせる。そのうえで最終的な責任は部下と共同で取るのが上司の務め」
気をつけるべきは、そこで上司が自身の考えを部下に押しつけないこと。答えまで導いていては部下の自由が失われ、それでは何の意味もない。