「抗がん剤の治療が以前に比べて軽くなった気がする」
──がんの再発を経験した患者さんから、そのような話を耳にすることも。
個別化が進む抗がん剤治療
がんの薬物治療はどう変わってきているのか、がん研有明病院院長補佐であり腫瘍内科医でもある高野利実医師は次のように話す。
「抗がん剤は世の中に存在する薬剤の中でも副作用が強い薬であるのは間違いありません。ただし、副作用の出方や程度は、使用する抗がん剤によって異なりますし、同じ抗がん剤を使っても、患者さん一人ひとりで違ってきます」
がんの治療では、「手術」、「放射線療法」、「薬物療法」が三大治療と呼ばれ、抗がん剤治療は薬物療法に属する。
「手術と放射線療法は身体の一部分にだけ効果が及ぶ局所治療です。対して薬物療法は、身体全体に効果が及ぶため、全身治療ともいわれています。
早期がんでは、局所治療と全身治療を組み合わせて体内のがんをゼロにすることを目指して治療を行うこともあります。
がんが身体中に転移している進行がんでは、局所治療でがんを抑えることはできず、治療の中心は薬物療法となります」(高野先生、以下同)
医学や薬の進歩はめざましく、現在の薬物療法では従来の抗がん剤のほかに次のような薬剤も用いられる。
「20世紀の薬物療法では、ほとんどの患者さんに細胞を無差別に攻撃するような従来型の抗がん剤が使われていました。しかし、21世紀になってからは、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬といった治療が主流になっています。
がんを抑えるための薬という意味で、これらの薬の総称として“抗がん剤”という言葉が使われることもあります」
分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬のそれぞれの働きとは?
「分子標的治療薬は、がん細胞の特色をターゲットにして、がん細胞だけに作用することを意図した薬です。
がん細胞には免疫による攻撃を逃れるような仕組みがありますが、その仕組みが機能しなくなるように働きかけてがん細胞を攻撃する免疫の力を復活させるのが免疫チェックポイント阻害薬です。
私の患者さんには“ノーベル賞を受賞した本庶佑先生の研究によってできた薬です”と説明しています。