一度始めると、何十年も続けたくなる魅力
では、具体的に“柔術”とはどんなスポーツなのか。柔術にもさまざまな流派があるようだが、ルーツはブラジルに移住した柔道家・前田光世が地元の有力者グレイシー一族にその技術を伝えたことから始まる。
護身と格闘技という側面を持ち、寝技を主体とする組み技で勝敗をつける。柔道のように投げ技では勝敗は決まらない。力業ではなく、小柄でも体格や力の差のある相手でも勝てるように考案された格闘技が柔術なのだ。この魅力を世に知らしめたのが、1993年の異種格闘技戦(UFC)。大柄でパワーに勝る、パンチやキックが得意の選手に勝ち続けた。
20年以上柔術を趣味とする40代の男性は、「柔術家のホイス・グレイシーが、パンチやキックをほとんせず、相手に流血させることなく、自分より大きな選手に「参った」と言わせて勝ち進み優勝したんです。当時、見ていて魔法のようだと思った。自分もやってみたいと思いました」と語る。
当時は格闘技全盛期。そのルーツが日本を代表する競技・柔道であること、欧米と比べると体格で劣る日本人に、小柄でもパワーで劣っていても勝てることが、非常に親近感をもたらし第一次ブームとなった。
ただこの柔術という競技、正直、寝技中心で未経験者は見ていても何が起こっているかわかりにくい。
「それが柔術が“DO(やる)スポーツ”と言われる所以ですね(笑)。見て楽しむというより、実際にやっている人が一番おもしろい。例えば、開始の立ち合いから、自分がいかに有利な体勢にもっていくかがポイントなのですが、ここから駆け引きが始まるわけですよね。有利なポジションをキープすることはもちろん、不利な体勢からいかに脱するか、その思考がある種“知恵の輪”のようだとも例えられます」
ここが、マック・ザッカバーグや、イーロン・マスクなど世界の実業家や、ビジネスマン、ストイック系職業の人を魅了するポイントだろう。
「最初の組み合いから、自分のいいポジションに持っていけたとします。でも技をかけるには、常に姿勢を変化させ続けなければならない。いいポジションをとれただけでもポイントはつきます。でも、当然相手も逃れようと動くわけですから、そこからリスクを取りつつさらに自分の決め技へもっていくための姿勢へとどんどん変化させていくわけです」
また逆に、不利な姿勢であっても、相手の攻撃を脱するための思考や姿勢がある。どんなに不利でも必ず突破口がある。
「一瞬で片が付く打撃試合ではなく、さらに不利な姿勢が続いてもそれで負けといったルールではないので、考える時間があるわけです。相手の動きを感じながら、常に考えながら行うスポーツです」
今がどんなに安泰な状態でも、さらに高みを目指し変化させていくことは一流の実業家には必須の思考能力。さらに、どんなに窮地でも必ず脱する術があると解決策を模索する思考の訓練は、普段の生活や仕事にも非常にいい影響をもたらすと山田さんは語る。
飽きっぽい人にはぴったりの競技
これらの技の組み合わせは野生の勘などではなく、すべて体系化されているものだという。実際にトライフォースでは何百という組手のレパートリーが紹介されている。
「技をうまく組み合わせる、パズル的要素もありピースがハマると小柄な人でも大きな人を組み伏せ、圧倒することができますし、終わった後には気持ちよく頭が疲れます(笑)。テクニックも当然ですが、技のレパートリーがとにかく多い。続けていくうちに、あれもこれもと技がでてきて、飽きる暇がない。飽きっぽい人にはぴったりの競技だと思います」
年齢も経験も体格も性別も関係なく、始められる格闘技。スポーツの秋に趣向を変えて、「思考のスポーツ」に挑戦してみては。