娘の幸せを願う102歳の父
父の良則さんは102歳の今も、呉でひとり暮らしをしている。要支援2の認定が出ているが、介護サービスは利用していない。信友さんは気候の厳しい夏と冬は2か月ずつ帰省して、父の負担を減らすようにしている。
信友さんに、ちょっと意地悪な質問をぶつけてみた。
「自分も認知症になる恐怖心は?」と聞くと、信友さんは大きくうなずく。
「あります、あります。恐怖心はずっとあります。私、決めているのは、自分でおかしいと思ったら、自分で自分のことを撮ろうって。自分の認知症を撮ったドキュメンタリーはないので、これは新しいと思ったら、ワクワクしてきて、ちょっと楽しみにもなってきました(笑)。
そうやって何かあっても、その中で楽しいことを見つけるのは母も得意だったし、父もそんな母に引っ張られて、安気でくよくよしない性分になったんだと思います」
横にいる良則さんに、「何か思い残したことは?」と聞くと、ポツリと一言。
「いやあ、娘の幸せを願うぐらいですね」
その返答を聞いた信友さん。泣きそうになりながら、「どしたん。かわいいねぇ」
と言って、父の髪を手でやさしくなで続けた─。
取材・文/萩原絹代
はぎわら・きぬよ 大学卒業後、週刊誌の記者を経て、フリーのライターになる。'90年に渡米してニューヨークのビジュアルアート大学を卒業。帰国後は社会問題、教育、育児などをテーマに、週刊誌や月刊誌に寄稿。著書に『死ぬまで一人』がある。