息を吸いたくても吸えない悪循環に

 さまざまな症状が出る過換気症候群。身体の中では、何が起こっているのか。

「通常、人間の呼吸は1分間に10~14回程度ですが、これが20~30回に増えると過換気という状態になります。これは体感するとわかるのですが、かなりせわしなくひっきりなしに呼吸をしている状態。

 呼吸の回数がここまで増えると、1回の呼吸は浅くなり、酸素を吸わずに二酸化炭素をどんどん吐き続ける状態になります。

 通常、人間の血液は中性に保たれているのですが、二酸化炭素を多く出しすぎると、血液がアルカリ性に傾いてしまいます。この影響で手足の血管が収縮し、手足のしびれやけいれんなどの症状が出てきます」

 発作が出た場合の対処は、気持ちを落ち着かせ、ゆっくりと呼吸を元に戻すこと。しかし、呼吸ができなかったり、手足がしびれ出すとさらに不安を感じて苦しさが増すという悪循環に陥る。

「呼吸中枢はアルカリ性の身体を酸性に戻そうと呼吸回数を減らせと指令を出して、呼吸を止めようとしてくる。気持ちとしては呼吸ができない苦しさや息苦しさからなんとか呼吸したい!と焦る。つまり、息を吸いたいのに吸えないという状態になります」

 過換気の発作は10分程度で収まることが多く、長くとも30分から60分ほどで落ち着く。ただ、悪化すると倒れ込んでしまい、この間に救急搬送されるケースもある。

よく間違われるパニック症との違い

 過換気症候群とよく似た病気にパニック症があるが、この違いは何なのか。

 パニック症は、何の前ぶれもなく起こるというのが特徴。誘因がある過換気症候群とはその点で違っている。

「アメリカ精神医学会の定義によると、突然、何のきっかけもなく急に出て、その動悸(どうき)や恐怖が10分以内に頂点に達するのがパニック症です。原因はなく、ただ朝食を食べているとき、ソファでくつろいでいるときでも起こる。

 これに対して過換気症候群は、先に挙げたような誘因が必ずあるので、別の病気とされています」

 ただ、パニック症が過換気症候群の誘因になるなど、2つの病気はオーバーラップすることもある。IKKOも、当初は過換気症候群と診断されたものの、後にパニック症も発症していると診断された。