「市街地は安全地帯」と学習か
里山とは薪を取ったり、炭を焼いたりしていた場所。そのために里山周囲から木を切り出していたので、太い木々が消え野生動物と人の生活圏の“緩衝帯”になっていたのだが─。
「薪の代わりに灯油などの化学燃料を使うことで、里山を利用する必要がなくなりました。放置された里山では森が回復し、どんぐりなどを実らせる木が生い茂るように。
このように里山にクマの生息できる条件が整い、クマが人の生活圏のすぐ近くにすみ着いてしまったと思います」
もともと、クマは臆病な動物。ならば、市街地などになぜ姿を見せるのか。
「人里近くでは人と出会っても人間は何もしてこないし、逆に逃げますよね。エサとなるものも多いし、クマを鉄砲で撃つ猟師もいない。市街地は安全地帯だと、クマは察しているのかもしれません」
知床半島のヒグマも最近では観光道路沿いに現れ、車の中の荷物を取ろうとしたり、車の前に立ちはだかったりもするのだとか。
「今年は本来の生息地にエサがなくなり、人里に出没した結果、人的被害が出ているのです。でもクマだって人間を襲おうとしているのではなく、自分の身を守ろうとしているだけ。そういうことから、最近は駆除をしたときに“クマがかわいそう”というクレームが自治体に入ることも多くあります。気持ちはわかりますが、人命がかかっているので、やむを得ないということもわかってほしいです」
クマが“悪者”となってしまっている今、大井教授は現状をこう憂える。
「本州と四国だけに生息しているツキノワグマは世界では数が減少し、国際的に絶滅が危ぶまれています。そんな中、日本で安定的に生き延びていることは、日本の自然が豊かな証拠。人に危害が及ぶのなら駆除もやむを得ませんが、何か共存する方法を探らないといけないと思います。人間の生活の変化により、動物や森林への関わり方が変わったことが大きな原因。私たち人間が解決しなければならない問題だと思います」