人の話を聞かない待てない親に辟易

 両親の老いをしっかり認識することになったこの時期、近所で暮らす叔母夫婦にも同様の異変を感じた。二人に子どもはいない。

「私が叔母夫婦の一軒家に足を踏み入れたときは、すでにゴミ屋敷一歩手前でした。冷蔵庫は実家よりもひどく、開けた瞬間にとんでもない異臭がする。中からはカビだらけの食品がいくつも出てきました」

 入浴もままならないのか、汗臭さと加齢臭がまざったような嫌な臭いが家中に蔓延(まんえん)していた。

こかじさんが叔母夫婦の家に駆けつけたとき、ゴミ屋敷寸前で台所に足を踏み入れるのもひと苦労。※画像はこかじさん提供
こかじさんが叔母夫婦の家に駆けつけたとき、ゴミ屋敷寸前で台所に足を踏み入れるのもひと苦労。※画像はこかじさん提供
【写真】認知症の影響で荒れた家、冷蔵庫の中には大量の「練りわさび」の小袋

「驚いたのはこの当時、叔父が接触事故に遭ったとき。自動車免許を更新しておらず、半年も無免許で運転していたと発覚しました」

 すでに冷静な判断ができず、時に狂暴化する両親に、自分たちで身の回りの世話ができなくなってきた叔母夫婦。かくして4人同時介護という地獄が始まった。平均年齢は91歳。1人の世話だけでも大変なのに、その現実は想像以上。

「介護を甘く見ていた」と述懐するこかじさん。何より予想外だったのは、はた目には些細(ささい)なことと思われるトラブルでも、四六時中続くと、いかに精神的なダメージが大きいかということだ。

「あるとき、母が山芋を食べて口がかゆいから皮膚科に連れて行けと。仕事があるから待ってと言うと“おまえは肝心なときに役に立たない”と憎まれ口を言うんです」

 実母の身勝手さは日ごとに強くなっていく。大量のパンを買ってくるので「冷凍したら?」と言うと「私に指図するな!」、料理を手伝おうとすると「年寄り扱いするな!」と返される。

「あなたが年寄りじゃなかったら、誰が年寄りなんですかって言い返したくもなりますよ。人の事情や気持ちなんてまるで考えない。デイサービスに行ってもらいたくても断固拒否です。

 母はもともと気が強い人でしたし、実の母娘ならではの遠慮のなさもあるでしょう。わかってはいても、万事この調子ではイライラが否応なくどんどん蓄積されて、ボティブローのようにメンタルがやられてしまいました」

 必需品の調達も4人分だ。介護用品も状況に合わせて買い足さなくてはいけない。

「叔母夫婦はぼろぼろの下着しかなく、高齢者でもラクにはける股引(ももひ)きや股上の深いズロースなんていうものを初めて買いましたよ。

 父が背骨の圧迫骨折でトイレまで歩けなくなったときには“尿瓶(しびん)を買ってこい!”と言われて探したり。すべて初体験なので、どこで買ったらよいのかわからず、あわてて介護経験者に聞いてまわりました」

年の瀬に背骨を圧迫骨折した父親のために用意した紙パンツと尿瓶。「結局、尿瓶は使いませんでしたが……」※画像はこかじさん提供
年の瀬に背骨を圧迫骨折した父親のために用意した紙パンツと尿瓶。「結局、尿瓶は使いませんでしたが……」※画像はこかじさん提供