警察などに代わって、悪に鉄槌をくらわせる闇の仕事人だって愛されている。作り手にそういう意図があるかはわからないけれど、無免許教師の設定は、世の中の、資格がありながら、社会に何も貢献しない人たちへの皮肉にも感じてしまう。
『下剋上球児』をひねったドラマにしたのは、『最愛』(2021年)や『MIU404』(2020年)、『アンナチュラル』(2018年)など、ヒットドラマを作ってきた新井順子プロデューサー、チーフ演出家の塚原あゆ子である。そこに『最愛』の脚本を手掛けた奥寺佐渡子が加わった最強のタッグ。これまで、サスペンス系のドラマで、登場人物の繊細な感情を描いてきたチームが、形骸化された野球ものに新風を吹き込もうとしているように見える。
野球ものでは珍しい女性プロデューサー
公式では『下剋上球児』を“現代社会の教育や地域、家族が抱える問題やさまざまな愛を描く、ドリームヒューマンエンターテインメントドラマ”とうたっている。思えば、女性プロデュースや演出家、脚本家の野球ものはあまりなかった。TBSドラマだと『木更津キャッツアイ』(2002年)は女性の磯山晶のプロデュースと数少ない。
第4話では、山住に「男とか女とかあんまり考えすぎないほうがいいです」と南雲は言っていたし、、男女分けて考える時代ではないとはいえ、『下剋上球児』も従来の野球ものに比べて、不良っぽい野球部員もあまり泥臭くない。それより内面の繊細な部分に心を砕いているように見える。
不正した主人公も、弱小野球部員も、社会からとりこぼされた者たちである。でも、彼らにだって心の奥に情熱の熾火はある。周囲からバカにされている地主の犬飼(小日向文世)は野球部の奮闘に刺激され、「何もしないでただただ年とっただけ」だが「1つくらい成し遂げたい」と言う。教師を偽物にしたことで、世の中からはみ出した者の悲哀と痛みと、それでも手を伸ばしたい希望に説得力ががぜん増しているのだ。
出演者はほかに、松平健や生瀬勝久など、大人の名優がそろって引き締める。これが当たれば、闇医者ものと並んで、偽教師ものも増えたりして。
木俣 冬(きまた ふゆ)Fuyu Kimata
コラムニスト
東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。