ここ数年、グルメドラマの勢いが止まらない。今期も『フェルマーの料理』(TBS系)、『きのう何食べた?』(テレビ東京系)など、食をテーマにした作品がラインナップ。
長年、医療ものと刑事もので飽和状態だった民放ドラマ業界に、新たな風を吹かせている。しかし、そうしたグルメドラマは、現場に立つ“食のプロ”たちの目にはどう映っているのだろうか?
過去のヒット作から近年の話題作まで彼らが「唸った」食のドラマを聞いてみた。
リアルな板場の雰囲気を忠実に再現
現場で働く料理人たちに、大きなインパクトを与えたのが一流料亭を舞台にしたドラマ『味いちもんめ』(1995年・テレビ朝日系)。中居正広演じる新人板前が、料理人として成長していく模様を描いた作品だ。当時すでに料理人として働いていた「日本料理 銀座 いしづか」店主・石塚規さんは、同作の料理シーンを高評価。
「板前が主人公で、料亭が舞台のドラマなんて当時はほかになかったので、最初はちょっと見てみるかくらいの気持ちでした。でも予想以上に料理のシーンがよく作り込まれていて、素直に面白かったです」(石塚さん)
「神楽坂くろす」主人・黒須浩之さんは、「板場の雰囲気がものすごく忠実に描かれていた」とリアルな世界観を絶賛。
「兄弟弟子や親方との関係性がとても共感できました。中居さんが演じていた生意気な主人公を見ていると、新人時代の自分を思い出します。煮魚の仕込みのシーンなど、技術的にも入念に取材して作られていたように思います」(黒須さん)
「うなぎ時任」店主・時任恵司さんにとってこのドラマは、自身のキャリアを決めるきっかけのひとつだった。
「不器用だけど一生懸命な主人公が、少しずつ料理の高みへとのぼっていく姿が印象に残っています。当時すでに料理人になろうと思っていた私に、さらに覚悟を持たせてくれたドラマです」(時任さん)
同様に、飲食店のリアルをうまく取り入れた作品として名前が挙がったのが、三谷幸喜脚本の『王様のレストラン』(1995年・フジテレビ系)。
つぶれかかったフレンチレストランを再建させるというストーリーで、主演は松本白鸚(当時は松本幸四郎)。飲食店コンサルティングを行う「ビープラウド」代表取締役・大山ジュンさんは、同作のエピソードが実体験と重なったという。
「オーナーの熱意とギャルソンのスキルが融合したときに、奇跡が連続して起きる展開に感動しました。実際の経営でも、みんなの力が重なったときに本当に奇跡のようなことが起きます」(大山さん)
居酒屋運営グループ「株式会社 渋谷の歩き方」代表取締役の久保木秀直さんも、同作を推す。
「松本幸四郎さんが演じる高いプロ意識を持つギャルソンをはじめ、個性豊かな従業員たちが一つのチームとなってトラブルを解決していく物語に共感しました。リアルなお店もドラマのように問題を解決しながら、結束を高めていくんです」(久保木さん)
日本橋の高級会員制すし店「鮨 不二楼」店長・宮川隼汰さんは、作中に登場したレシピを今でも鮮明に覚えているという。
「このドラマに出てきた“オマール海老のびっくりムース”が忘れられません。当時、食べたくて仕方がなかった思い出があります」(宮川さん)