ゴミで埋もれた台所、自炊できず家計圧迫
もう一件の実例は、息子と2人暮らしをしている50代の女性。2DKのアパートは生活ゴミや通販の段ボールで足の踏み場もなく、トイレに至っては空のペットボトルで便器が埋もれていた。
その状態で3年暮らしていたという。見積もり時は、恥ずかしそうな、申し訳なさそうな様子を見せていたという。
「優しいお母さんという感じの方で、ゴミ屋敷化してしまったことで中学生くらいの息子さんに、手料理を作ってあげられないことをとても苦にしていました」
家主である女性は、隠れゴミ屋敷化した経緯について、
「女手一つで息子を育てるために仕事を掛け持ちしていて、休めるのは日曜日だけ。仕事から帰っても“片付けは明日やろう”、“掃除は週末に”と、家事や掃除を後回しにするようになり……。気づいた時には、自分ひとりではどうにもできないほどのゴミの量になっていて」と話す。
ゴミに埋もれて台所が使えなくなってからは外食するしかなく、家計も苦しくなって悪循環に。不安やストレスから自暴自棄になり、片付けようという気力すらなくなっていった。
引っ越してきたばかりの状態に戻し、また息子に好物の卵焼きを作ってあげたいと勇気を出して依頼してきたのだ。
「このお客様は僕たちが作業している様子を発信しているYouTubeの動画を見て、1年近く悩んだうえでご連絡いただきました。1日できれいになった部屋を見て驚かれると同時に、涙を流して『心を入れ替えます』と誓っていました」
その言葉どおり、3週間後にお宅を訪問したところ、片付け直後よりきれいに。家を整えることが楽しいと、前向きに変わっていたという。
「再びゴミ屋敷にリバウンドしてしまう人は、実はわずか。収集癖や精神的な問題で元に戻る人もいますが、9割の方が片付けた状態をキープしています」
本人が、このままではダメだ、なんとかしたいと思っても、気づいた時にはひとりではどうしようもない状況になっている人がほとんど。
民間の片付け業者に頼むのが唯一といってもいい解決策で、依頼する勇気とともにそれなりの費用も必要だ。業者の質もピンキリで、悪徳に近い業者も存在する。
「ざっくりとした金額ではなく、見積もりが明確な業者を選んでほしいですね。“ゴミをトラックに積んで、往復した回数で金額が決まるので当日に費用が確定する”と言い多額な費用を請求する業者もいるようです。作業人数や作業日数を、前もって具体的に提示してくれるところが安心です」
働きざかりで休めない人や、育児や介護をひとりで抱えている人など。“誰にも頼れない”状況が招く隠れゴミ屋敷。
「ゴミが捨てられない……」はわが身からの“助けて”のサインだと認識し、キャパオーバーを感じた時には、身近な人や自治体などにまずは相談をしてほしい。
取材・文/野沢恭恵