東京ドームに足を運んだ理由
そんな槇原は、2014年に発売されたビリー・ジョエルのトリビュート・アルバムに参加。ビリーの代表曲『素顔のままで』をカバーしている。憧れのミュージシャンのライブということで、東京ドームに足を運んだと思われるが、実は槇原の胸中には、もう1つの理由があった。
「2023年11月に、61歳で他界したシンガーソングライターのKANさんは、ビリー・ジョエルから音楽的に大きな影響を受けたと公言していました。1981年に初めて見たというビリー・ジョエルのライブが“私の音楽家への決意を確固たるものにした”と語っており、以後すべての来日公演に駆けつけていました」
1990年にKANさんがリリースした『愛は勝つ』は、翌1991年にフジテレビ系『邦ちゃんのやまだかつてないテレビ』の挿入歌に起用されると大ヒット。同じく1991年に、槇原は『どんなときも。』をリリースして大ブレイク。2人は、その年末の紅白歌合戦に初出場を果たした。
「KANさんと槇原さんは、表立っての交流はありませんでしたが、1990年代初頭に登場したピアノを弾き語るシンガーソングライターとして、ライバルとしても仲間としても、意識し合っていた部分があったようです。そんな2人にとって、時代的にビリー・ジョエルの影響は大きかったでしょう。今回のビリー・ジョエルのライブも、KANさんがもし元気だったら、間違いなく足を運んでいたでしょうね」
同じ時代を駆け抜けた音楽家の“同志”と、憧れの音楽家のライブへ――。ステージ上のビリー・ジョエルを見つめた槇原は、KANさんの分も、その歌声と演奏に酔いしれたに違いない。
槇原の個人事務所に、この日のライブについての感想を求めたが、
「確かに槇原は、ビリー・ジョエルさんのライブを観に行かせていただいておりました。ただ、今回はプライベートで伺ったものですので、コメントは差し控えさせていただきます」
とのことだった。“好きなものは好き”という気持ちを“信じること”に、天国のKANさんも、きっと微笑んで――。