お金の問題としては病院に支払う費用だけではなく、仕事ができないことによる収入減、雑費、サポートする家族や育児・介護代行にかかる費用など多岐にわたる。

治療によって起こる外見の変化をケアするお金も考慮

「私の場合、医療費の大半を占めたのが乳房再建費用でした。全摘した右乳房をシリコーン製インプラントで再建しましたが、2010年の時点では全額自己負担でした。さらにバランスを整えるための左乳房の豊胸も行ったので総額150万円以上かかりました。

 もちろん当時も保険適用の再建方法があり、それは自分の身体の一部を用いて失った乳房を再形成するもの。私はいろいろと勘案して自己負担の手術法を選びましたが、保険適用だった場合、自己負担3割で約7万~15万円。それにプラスして麻酔、薬剤、材料費などがかかっても自己負担と比べたらもっと安く済んでいたでしょう

 2013年以降はインプラントを用いた乳房再建手術も保険適用に追加されたが、手術で身体の一部を失った場合は、全体のバランスを整えるような形成手術も念頭に置いておかなければならない。

 特に女性にとって外見変化による苦痛は大きい。他にも脱毛などに悩むがん患者が多く、「アピアランス」いわゆる「治療によって起こる外見の変化」をケアするお金は、考慮しておく必要があるのだ。

「私は抗がん剤治療をしなかったので脱毛はありませんでしたが、そうなれば胸だけでなく、髪の毛やまつげ、まゆげのことも気にしたでしょう。しかし、ウィッグ、帽子、メイクアップなどの費用は全額自己負担。 今は一部の自治体では助成金などもありますが、アピアランス代は結構、高額な出費になりうるのです」

 がん患者の中で脱毛を経験するのは20%程度と推測され、平均1年は症状に悩まされることになる。 通常の医療用ウィッグは約4万円前後、高いものでは数十万円もするため安くはない。

 がんによって変化する容貌に対して、どこまで望み、ケアするのかでお金の事情も変わってくるのだ。

「私は民間のがん保険に入っていなかったので、再建手術のときにもし保険があればずいぶん助かったでしょう。がん保険の診断一時金の使い道は自由なので、質のいい食事やサプリ代など医療費以外のことにも使えるメリットがあります」

 医療保険やがん保険に加入していたとしても、告知を受けてすぐに給付金がもらえるとは限らず、立て替え払いが必要となるかもしれない。お金の切れ目が命の切れ目とならないためにも、初期にかかる費用としておおむね100万円くらいはすぐに現金として用意できるようにしておくとよさそうだ。