ただし、そんなふうに割り切れない場合もある。ある時、施設の上司・Mさんが朝から暗い顔をしていたので、どうしたのか尋ねると、Mさんは泣き出してしまった。聞けば半年ほど前から、お母さんに認知症の症状が出始めたという。
Mさんは、介護士である自分の経験があれば、母親ひとりぐらい、面倒を見ていけると思っていたそう。
「でもその前日、お母さんをお風呂に入れている時に、バカ!と怒鳴られ、シャワーでお湯をかけられたことにカッとなり、頬を叩いてしまったそうで。
“利用者さんにはそんなことしたことないのに……”と泣くんです。その時は、なんと言葉をかけたらいいのかわかりませんでした」
介護のスキルや経験がある人でも、自分の親が変わっていくのを受け入れるのは難しい。「他人だからこそ介護できる」というのは、畑江さん自身も介護職を経験して、よくわかるようになった。
「家族間の介護は本当に大変だと思います。私たちは退勤時間がくれば帰宅できますけど、家族は24時間向き合わなければなりませんから。
そんなご家族の方々が、ひと息つける時間をつくるために私たちはいると思っています。お金はかかってしまいますけど、介護サービスを使うのは決して悪いことではないので、どんどん頼ってほしいです」
認知症の高齢者が介護施設に入居する経緯はさまざまだが、虐待がきっかけになるケースも多いという。
「手を上げてしまったというだけでなく、ご飯を出さない、話さない、お風呂に入れないといったネグレクトも含め、虐待は多くあります。
ただそれは、相手を思いやって一生懸命やっていたからこそ、カッとなったり、疲れ果ててしまった末のこともあるのだと、私も介護職員を経験して、身に染みてわかるようになりました」