ちょっと変わったタイトルのドキュメンタリー映画がある。2023年に劇場公開された『チョコレートな人々』(東海テレビ製作)。公開以降、感動の輪が広がり、今も全国で自主上映が続いている。
映画に登場する「久遠チョコレート」
映画に登場する「久遠チョコレート」は'14年に創業し、現在の年商は18億円。北海道から九州まで全国で40店舗(製造のみの拠点を含めると60か所)を構える。看板商品「QUONテリーヌ」のフレーバーはなんと150種類以上! おいしくて、選ぶ楽しさもあり大人気だ。
同社がユニークなのは約700人の従業員のうち、6割以上の約430人が障害者手帳を所持。子育て中・介護中の女性、ひきこもり経験者、性的少数者なども積極的に雇用していることだ。
就職先を見つけることさえ困難が多そうな人たちが大ヒット商品を作っている。しかも、みんなとても楽しそうに働いているのが印象的だ。
「チョコレートは失敗しても温めればまた作り直せる」
こんなナレーションが映画の中で何度も流れる。失敗を許されることが働きやすさにもつながっているのだろう。「人生もやり直せる」と応援されているみたいで、胸が熱くなる。
「すごいですね」
思わずそんな感想をもらすと、久遠チョコレート代表の夏目浩次さん(46)はやんわり否定する。
「僕は別に社会貢献とか、小難しいことを考えてやっているわけじゃない。ただ、社会が忘れていることを大事にしたいだけなんですよ。下を向いている人がいたら、ちゃんと寄り添っていくとか、困っていたら放っておかないとか。そんな単純なことしか考えていないんですよね」
映画で描かれるのは夏目さんが26歳で起業後、試行錯誤を繰り返し、やがて久遠チョコレートを設立し、大きくするまでの20年間。何度も失敗して借金まみれになるが、夏目さんは決してあきらめない。その根底にあるのは「怒り」ではないか。そう聞くと夏目さんは少し考えてこう答えた。
「経営者の集まりで『夏目君は素晴らしいことをしてるね』みたいに言われると腹が立ちます。そんな人ごとみたいな感想を言ってないで、自分ごととして考えてくれよって。特定の人だけ極端に働く場所がないとか、経済人として恥ずかしいと思おうぜって。そういう意味では怒りがあるかもしれないですね」
夏目さんの覚悟がわかるのは、例えば従業員を雇うときだ。面接の40分間、ずっと下を向いたまま、何を聞いてもか細い声で「すみません」としか言わない30代男性がいたが、採用したそうだ。
「履歴書を見るとコンビニを何十店も渡り歩いていたので、たぶん相当いろんな罵倒を受けて、自信がなくなっていたんでしょう。でも、何か自分を変えたくて来ているんだな、うちで働きたいんだなという切々とした思いは、すごく感じたんです。人と本気で向き合うと、伝わるものってあるんですよ。だから、『採用!』って(笑)。やっぱ、放っておけんのですよ」