家族でくつろげる居場所をつくりたい
「彰さんとふたりで、なるべくストレスなく、笑顔で日々を送りたい」
そう願う沙代子さんは、行政が主催する認知症の会に参加した。しかし、どこか居心地の悪さを感じたという。
「認知症の当事者と介護者で、分かれて活動するんです。認知症の人たちがワークショップに参加する間、介護者は日々の悩みなどを共有。そういう時間ももちろん大切ですが、家族として彰さんと一緒に楽しみたかった私には何か違うなと感じました」
そこで沙代子さんが3年前に自ら立ち上げたのが『フレンズ』。認知症の当事者とその家族が交流し、共に楽しむことを目的とした会だ。
「今はもうできませんが、音楽好きの彰さんが弾くウクレレを伴奏に、みんなで歌うこともありました。歌っていると誰が認知症なのかなんてわからないでしょう。病気の人とそうでない人の間に壁をつくりたくないんです」
沙代子さんは認知症の人に対して「患者」という言葉を使わない。病気のあるなしにかかわらず、一緒に笑って過ごす、ハッピーな時間を共有できる場所が、認知症家族には必要だと実感している。
症状が進んだ今、彰さんが沙代子さんの名前を呼ぶことはない。けれど沙代子さんは、
「正面から目を見て話しかけると、彼が何を考えているかわかるんです。『これから〜〜するね』と言えば、いいか嫌なのかを意思表示します」
今でこそ病気について明るく語る沙代子さんだが、過去には苦難の時期もあった。
2022年の夏、彰さんが徘徊(はいかい)で行方不明になる。警察も出動する事態となったが、幸いにも住宅街で倒れているのを近所の住民に発見された。
「午前中から30度を超えるような猛暑の日、次女一家が帰省していて、朝食の準備で目を離した数分でした。
それまでにも徘徊はありましたが、近くに住む長女と手分けして捜しても見つからず、もし人目につかないような農道などで倒れていたら、命に関わる状況でした。自宅から4kmの地点で見つかったときは、あおむけに倒れ脱水症状、背中には焼けたアスファルトでやけどを負っていました」
困難は続く。'23年12月、彰さんはコロナに罹患(りかん)。自宅療養生活で体力が落ちたことから歩行困難となり、以降、寝たきりの生活が始まった。
「認知症なので、コロナが治ったからと、起き上がって身体を動かそうという意欲がありません。必然的に、そのままベッドで過ごす生活に移行していきました」